August 02, 2003

ネット時評執筆者が選ぶ「夏休みに読みたい3冊の本」(1)

掲載媒体:日経デジタルコア


長野 弘子/ITジャーナリスト

フリーソフトウェアと自由な社会——Richard M.Stallmanエッセイ集

【著者】リチャード・ストールマン 長尾高弘訳
【版元】アスキー
【書籍コード】ISBN4-7561-4281-8

 フリーソフトウエアの生みの親、リチャード・ストールマンによるエッセイ集。プログラマー以外の人にも理解できるように、分かりやすく書かれている。とくに第11章の未来小説、月面革命の先人たちの論文を集めた『ティコへの道』が面白かった。

 舞台は、自由に本を借りて読むことが禁止された2096年の地球。本の1冊1冊には著作権モニターがつけられ、いつどこで誰が読んだかは中央ライセンス局に報告され、正統な手続きを経ないで読んだ場合は”海賊行為”として取り締まりを受ける。そして…。

 この小説はフィクションだが、レコード業界からP2Pソフトの個人利用者が訴えられたり、コピー防止を解除する技術すべてを違法と定めた米国の「デジタルミレニアム著作権法」により大学教授が研究論文を発表できなくなったりと、現実に似たようなことが起こりつつある。

 ストールマンは、もともと著作権制度は情報が有益に提供されるように作られた仕組みであり、時代の変化とともに柔軟に変わるべきと考えている。そこから、既存の著作権制度を使いながらユーザーの自由度を高める巧妙なライセンス方式「GNU GPL」を生み出した。本書は、GPLとはいったい何かについての分かりやすい説明、さらに、GPLベースのライセンスをいかにビジネスに結びつけるかまで網羅されている。著作権制度の見直しが迫られる現在、ストールマンの考えをいま一度振り返ってみることは重要だろう。

心の起源〜生物学からの挑戦(中公新書)

【著者】木下清一郎
【版元】中央公論新社
【書籍コード】ISBN4-12-101659-9

 生物情報学の本だが、心がいつ生まれたかを、生物学の立場から解きあかすという珍しい試みを行っている。情報処理システムとしての脳と、理論では説明できない心との関連性についての考察が興味深い。

 筆者は、心は「記憶」が誕生したときから生まれたという大胆な仮説を立て、本書を通してそれを立証していく。脳に伝達される電気的信号に対する単なる反射のみで動いていた生物体が、反射ではなく自分で「選択」をするようになったのはいつからだろうか? 筆者は、生物体が「記憶」する能力をもったときからだと考える。

 記憶が積み重ねられることで、はじめて時間と空間の概念が生まれ、それによってはじめて選択することが可能になるというのだ。逆にいうと、記憶がないと取るべき行動を選択することができない。そして、自分で選ぶという意志が、心の起源だと考える。

 もちろん、この理論はあくまで仮説であり、実際に証明されたわけではない。それでも、記憶→選択→心という結論に行き着くまでのプロセスが面白いし、脳の情報処理システムを深く分析した内容は、読み物としても楽しめる。

なぜYAHOO!は最強のブランドなのか

【著者】カレン・エンジェル 長野弘子訳
【版元】英治出版
【書籍コード】ISBN4-901234-31-5

 落ちこぼれの大学院生2人が趣味ではじめたサービスが、あっというまに巨大メディア企業へと変貌した。それはなぜか?

 米ヤフーの設立当初から現在にいたるまで、大勢の関係者に詳しく話を聞きながら、ヤフーの強さに迫っている。ヤフーがネットバブルの象徴的な企業だったにもかかわらず、なぜバブル崩壊後も生き残り、最強のブランドになったかについての答えが、この本から見えてくる。

 私事で恐縮だが、本書の翻訳を担当させてもらった。設立の様子をよく知る「レンタルCEO」のフィル・モネゴー他、表舞台に登場しなかった人々を根気強く取材して集めた膨大な情報は、どれも貴重なものばかりだ。ネット時代の幕開けとなったウェブブラウザー「モザイクV1.0」が登場してからちょうど10年にあたる今年は、ヤフーの道のりを振り返り、これからの方向性を考えるいい機会だと思う。

Posted by hiroko at August 2, 2003 12:39 AM
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