August 02, 2003

RFIDタグと消費者

値札にICチップを組み込んだ「RFIDタグ」
商品管理ではなく、消費者のためのサービスが必要

文/写真:長野弘子

 スーパーで買い物をして、レジの読み取り機に買い物かごを乗せるだけで、すべての商品がまるごとスキャンされる。支払いは非接触式のICカードをかざすだけでOK。こんな便利な生活が、もうすぐ訪れようとしている。「RFIDタグ」と呼ばれる超小型のICチップを含んだ値札があらゆる商品につけられ、ネットワークを通して管理するという技術が導入されはじめている。RFIDにより、私たちの生活はどう変わるのだろうか。現状と課題を探ってみた。

●近所のスーパーに登場するRFIDタグ
 世界で4700店鋪をもつ小売チェーンのウォルマートは今年1月、生活用品メーカーのジレットと提携して「RFIDタグ」を導入する実験を行うと発表した。RFIDは無線IC技術のひとつで、超小型ICチップをタグに埋め込み、電波を使ってICチップに書かれた情報を読み取る。通常のバーコードは、商品の数を調べるときには箱から取り出して1つ1つスキャンするしかないが、RFIDは読み取り機の「リーダー」で箱ごとスキャンできる。こうした特徴から次世代バーコードとも呼ばれ、生産工場から小売店に届くまでの商品管理や在庫の確認、店鋪内での品切れや万引き防止に役立つと期待されている。
 ウォルマートの実験は、RFIDタグを貼った商品を、リーダーが埋め込まれた「スマート棚」に置くことで、店舗内の商品管理を効率化する狙いがある。客が商品を手に取ると、棚から商品が無くなったことを認識し、カメラと連動させて品切れや万引きを防ぐ。ジレットは、英国を拠点にする小売チェーンのテスコとも導入試験を行っており、独メトロもRFIDタグを使ったスマート棚や、セルフサービスのレジなどの導入試験を行っている。

●マラソンや図書館の蔵書管理にも利用
 今年に入り、とくに大きな注目を集めているRFIDタグだが、技術そのものは20年前から存在しており、目新しいものではない。ここ数年で急速に実用化が進んだのは、ICチップの小型化や低コスト化の影響が大きい。また、米国では万引きや搬送途中の紛失が多く、米小売業協会によると2001年には売上の1.8%に当たる332億ドルが失われている。こうした状況を改善するため、1999年にマサチューセッツ工科大学(MIT)に「オートIDセンター」が設立され、RFIDタグを使った次世代バーコードシステムの開発に力を入れている。
 日本でも今年3月、東京大学の坂村健教授が中心となり「ユビキタスIDセンター」が設立され、標準IDタグの認定を行っている。日本では現在、千葉県の図書館の蔵書管理や、マラソン選手にRFIDタグをつけて正確なタイムを計測するなど、RFIDタグを利用したサービスが提供されている。

●RFIDタグの普及をはばむ要因
 しかし、RFIDタグの普及に関して、プライバシー擁護派の多くは懸念を表明している。今年3月、イタリアの服飾メーカーのベネトンがRFIDタグを衣服に組み込む計画を発表すると、すぐに大規模な反対運動が起こった。ホテル宿泊など身分証明が必要な場所でRFIDタグのついた服をスキャンされ、個人情報が収集される危険性があるからだ。同社はわずか3週間後、製品にはRFIDタグをつけないという声明を発表した。
 冒頭で紹介したウォルマートの「スマート棚」導入も、7月に突然中止が発表された。同社は、商品ごとにRFIDチップを組み込んで情報を処理するには膨大なコストがかかることを理由に挙げているが、プライバシー懸念への配慮もあったと言われている。オートIDセンターはこの問題を受け、精算後にタグを使用不能にする機能を組み込むよう呼びかけている。
 また、コスト面の問題も無視できない。RFIDタグの価格は1個当たり50セント前後だが、生活用品のタグとしては高価すぎる。5〜10セント程度にならないと普及は難しいだろう。ほかにも、何気なく商品を手に取り棚の上に置くと商品の向きが変わり、RFIDタグが識別不能になるといった技術上の問題がある。タグを読み取る時間の間隔も含めて、まだ多くの課題が残されている。

●動物や人間にも埋め込まれるチップ
 RFIDタグは、商品だけではなく、動物や人間にも埋め込まれつつある。すでにペット用のRFIDタグは当たり前になっており、世界中で2500万頭の動物にRFIDチップが埋め込まれている。人体に関しては、英国レディング大学のケビン・ワーウィック教授がセンサーと神経をつなぐ実験を行うため、1998年にRFIDタグを左手に埋め込んだ。米国でも、2002年4月に食品医薬品局(FDA)が人体埋め込み用RFIDタグの販売にゴーサインを出したことから、ADS社が人体用RFIDタグ「ベリチップ」を発売し、現在約20人がチップを埋め込んでいる。将来は、本人がどこにいるのか確認できるGPS機能が付加される予定だという。
 さらに、EU加盟国のパスポートにバイオメトリクス情報の入ったRFIDタグを組み込む計画のほか、EURO紙幣から軍事物資、痴ほう老人用ブレスレットにいたるまで、RFIDタグはありとあらゆる場所に組み込まれつつある。調査会社ABIの予測によると、RFIDの出荷数は2002年の3億2300万個から2007年には16億2000万個に増えるという。2008年には31億ドル市場に成長すると期待されるRFIDタグだが、単に商品管理という観点からではなく、プライバシーポリシーを明確にしたうえで、消費者にとって利益になるサービスを提供しなければ、消費者の不安を払拭することは難しいだろう。

画像1:チェックポイントシステムズ社のRFIDタグ
(http://www.checkpointsystems.com)
バーコードをはじめとするタグやラベルのメーカー、チェックポイント社が開発したRFIDタグ。

画像2:『ボイコットベネトン』
(http://boycottbenetton.org)
RFIDタグ導入に反対し、ベネトン製品の不買運動を呼びかけるサイト。スーパーマーケットのプライバシー侵害に反対する消費者団体「CASPIAN」(www.nocards.org)のプロジェクトとして立ち上げられた。

画像3:ADS社の「ベリチップ」の仕組み
(http://www.adsx.com/prodservpart/verichip.html)
注射を打つ要領でベリチップを体内に埋め込む。心臓病などで意識不明のまま病院に運ばれても、ベリチップを専用リーダーでスキャンして医療カルテを取り出し、適切な治療を施すことができるという。


Posted by hiroko at August 2, 2003 02:10 AM
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