「コンテンツ・クリエイターの流通革命」
〜コンテンツの定義そのものを変える可能性も
文/写真:長野弘子
掲載媒体:ASAHIパソコン
インターネットの登場は業界を超えたあらゆる分野を巻き込んで変革の波を起こしているが、音楽家や映像デザイナー、作家といったコンテンツ・クリエイター達にとっても例外ではない。ブロードバンドの普及により、既存の大手メディアに依存せず、直接ユーザーに自分達の作品を配信したりファンとのコミュニケーションを取るクリエイターが増えることで、コンテンツの配信モデル、さらにはコンテンツの定義そのものが大きく変貌を遂げる可能性がある。
●ブートレグを自らリリースするパールジャム
ネットを使えば、オリジナルに近い音楽が即座にやり取りできるので、無名のアーティストにとっては自分の音楽を宣伝する絶好の機会になる。ニューヨーク在住の音楽家、マーク・アリソンは、デビューのきっかけを「自分の作曲した楽曲を電子メールに添付していくつかの音楽レーベルに送ったら、僕の音楽を気に入ってくれたレーベルから連絡があって、CDの契約が決まったんだ。ネットがなかったら、こんなに簡単に契約できなかったと思うよ」と語る。
しかし、ネット上で自由にデジタルファイルが飛び交う状況は、既存の音楽レーベルにとってはCDの売上減という大きな脅威につながる。音楽業界はそのため、無料音楽ファイル交換ソフトのナップスターを徹底的に潰した。その一方で、ブートレグ(海賊盤)の流通を認めながら、大きな成功を収めているバンドも存在する。
超人気バンドのフィッシュは、彼らのコンサートを自由に録音してMP3ファイルで交換することを認めている。ただし、ブートレグを販売して個人が利益を得ることはできない。実質的にはナップスターと同じことが行われているわけだが、現在フィッシュのファンサイトは150を超え、彼らとファンの結びつきはより強まっている。フィッシュが公式サイトで今年のニューイヤー・パーティを告知したところ、会場には7万5000人のファンが押し寄せて、世界中で一番大きなパーティとなった。
有名バンドのパールジャムはまた、ライブのたびにブートレグが無数に出回ることを逆手にとり、自らツアーのすべてを録音して2枚組CDの72枚にまとめた。すると、今までは音質が悪いうえに高価だったブートレグを買っていたファンが正式盤CDへと流れて、その中の14枚がビルボードのヒットチャートに入るほど売れたという。ちなみに、CDタイトルも「ブートレグ」と名付けられた。
●映像分野の流通とマーケティングが変わる
また、映画の世界でもネットとブロードバンドの登場により、大きな変化が起きつつある。ネットを最大限に活用したマーケティングの最初の例として、99年夏に封切りされた「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」は、広告費のほとんどをネットに費やしたゲリラ的なマーケティング戦法により、他のハリウッド映画に大きく差をつけ1億4000万ドルの売上を達成した。これまでは、映画の成功のためには配給とマーケティングを独占している既存のメディア大手に頼るしかなかったが、この構図が大きく変化したことを象徴する出来事になった。
また、ブロードバンドの普及とともに、ストリーミング・ビデオ分野から数々の映画監督が登場している。デビッド・ガレットとジェイソン・ワードは、製作した映画「Sunday's Game」を15の映画祭にエントリーしたがすべて落選し、困り果てて短編映画サイトのアイフィルムに掲載した。その後、同映画は口コミで人気を呼び、FOXネットワークの幹部の目に止まり長編の制作契約に結びついたという。
家庭が光ファイバーでつながりギガビット級の転送速度が実現するようになれば、ヴィラージが開発しているビデオ検索技術やビデオ・オン・ディマンド(VOD)などの技術が日常に組み込まれ、さらに大容量コンテンツが溢れるようになるだろう。VODソフトを開発するインターテイナーのジョン・タプリンCEOは「我々は今、新たな流通とマーケティングの形態を生み出すブロードバンド革命の渦中にいる。ブレア・ウィッチの成功はその始まりにすぎない」と語る。
●テキストと映像が融和する電子文学
出版業界におけるブレアウィッチ的作品は、2000年3月にオンライン販売されたスティーブン・キングの短編小説「Riding the Bullet」だろう。この小説は電子ブックでのみ出版され、何と1日で40万部以上がダウンロードされた。このニュースは全米中で話題を呼び、老舗の電子ブックサイト「イーブックス・オン・ザ・ネット」はこの直後に取引件数が倍増したという。
こうしたことから、今年から非常に名誉のある文学賞「全米図書賞」の対象に電子ブックも含められることになり、電子ブックはますます注目を集めそうだ。コンサルティング企業のアクセンチュアによると、同市場は2005年には2億3000万ドルに伸び、電子ブック閲覧用デバイスのユーザー数は2800万人にのぼると予測される。やや楽観的な数字ではあるものの、通常のウェブブラウザーで閲覧する電子文学も多数登場しており、本の概念を大きく変える試みを行っている作家も多い。例えば、電子文学機関が主催している「電子文学賞」を授賞したケイトリン・フィッシャーの「These Waves of Girls」は、FLASHを使用して文章と映像を美しく融和させた独特の世界を生み出している。
さらに、フリーランスライターの記事を再販するサイト「フィーチャーウェル・コム」では、出版社や編集者は無料でサイトを閲覧でき、そこに掲載されている記事をライセンスする場合にはお金を支払うというビジネスを展開している。ライターは金額の60%を受け取れるなど、コンテンツが幅広く流通する仕組みがここにも出来つつある。他にも、2000年11月にシアトルの2大新聞の社員がストライキを行った際、記者らはピケを貼りながらもオンライン新聞「シアトル・ユニオン・レコード」を開設してレポートを行った。この臨時サイトはストライキが続いた7週間もの間続けられたが、一般的な新聞よりも臨場感があって非常に面白かった。
ネット時代におけるコンテンツの流通モデルを探るなかで、単なる流通だけではなく、コンテンツの定義そのものが大きく変貌しているように思える。デジタルコンテンツが一瞬でやり取りされる状態では、個人が大量の情報を発信してしかも他人のコンテンツに簡単に修正を加えることができ、著作権の枠組が曖昧になってくる。こうした状況に対応するため、学術分野などでは「オープン・パブリケーション・ライセンス」(OPL)というコンテンツのオープンソース運動が広まっている。これは、コンテンツを公共ドメインにして自分の著作権が明記される限りはデジタル配信や複製、改変を認めるというものだ。今後は、技術的なボトルネックが解決されるとともに、大容量のコンテンツが大量に溢れ出すようになる。守る部分と共有する部分をいかに見極めるかが、企業やクリエイターの生き残りの鍵になってくるだろう。(2001年7月)
画像1:マーク・アリソン。「Of Earth and Sky」(ニューロディスク・レコーズ)と「Massive Eclipse」(ビレッジ・レコーズ)をリリースしている。
画像2:フィッシュの公式サイト:イベントスケジュールや最新ニュースがいつでも見れる。
画像3:パールジャムのCDシリーズ「ブートレグ」
画像4:インターテイナーのデモページ。映画、音楽、テレビ番組などのVODを提供している。
画像5:ケイトリン・フィッシャーの電子書籍「These Waves of Girls」:テキストと映像を組み合わせてインタラクティブに話が進んでいく。
画像6:フィーチャーウェル・コム(http://www.Featurewell.com/):政治からスポーツ、アートにいたるまで、世界中のニュースが集まる。
画像7:シアトル・ユニオン・レコード:7週間のストライキが終わった後もまだ開設されており、ストライキを終えた後の記者の感想、読者の意見が読める。