数々のスター監督が生まれる反面、ナップスター化する危険性
文/写真:長野弘子
掲載媒体:ASAHIパソコン
1999年に公開されたインディーズ映画『ブレアウィッチ』の爆発的ヒットはまだ記憶に新しいが、米国では現在、オンライン映画が新たなヒット映画を生み出す重要な発信源となりつつある。ブロードバンドとデジタルビデオ(DV)カメラの急速な普及により、ハリウッドのベテランからアマチュア監督まで、ありとあらゆる人々がデジタル映画の世界に足を踏み入れている状況だが、この分野で活躍する企業や人気のある映画、また大きな論議を巻き起こしている新たなビデオファイルフォーマットなどについて探ってみた。
●映画サイトからスター監督が誕生
調査会社のジュピター・メディア・メトリックスによると、米国家庭のブロードバンドユーザーは現在860万人であり、2005年までには2880万人に急増すると予測される。また、ガートナー・グループの調査によると、ブロードバンドユーザーは、ダイヤルアップユーザーに比べてダウンロードやストリーミングを2倍以上も使用しており、今後もこの傾向に一層の拍車がかかるとされている。これらのユーザーに対して、デジタル映画を提供している代表的な企業が、アイフィルム(iFilm)である。同サイトでは1万5000本以上のビデオコンテンツを提供しており、カテゴリー別に映画を選べるほか、一番ビューワーが多い映画ランキングや、評価が高かった映画のランキングなども提供している。これらの映画の多くは、5分〜15分あたりの短編映画が圧倒的に多く、接続速度に合わせたストリーミングを用意しているので、ユーザーは気軽に映画を楽しむことができる。
アイフィルムに映画を提出する人々の多くは無名の映画監督だが、ここから人気を得てハリウッドへ進出したりする人も登場している。例えば、2000年に発表されたデビッド・ガレットとジェイソン・ワードによる『Sunday's Game』が挙げられる。これはお年寄りの女性達が集まってロシアンルーレットを行うブラックコメディタイプの短編映画であり、この映画を制作していた当時は2人とも失業中で、予算はたったの1万2000ドル。制作が終わって15の映画祭にエントリーしたがすべて上映を断られ、当たった映画エージェンシーにもことごとく断られたという。困り果ててアイフィルムに作品を提出したところ、口コミで急速にユーザー数を伸ばして人気ランキングに入り、そこからFOXネットワークの幹部がその作品を観て、長編の制作契約に結びついたという。
また、ハリウッドの特殊効果のベテランであるブルース・ブラニットとジェレミー・ハントによりDVとコンピュータのみで作られた映画『405』は、制作費がほとんどゼロの3分間の映画にも関わらず、カルト的な人気を集めることになった。彼らがやったことは、映画が完成した後で自分達のサイトに映画をアップロードして、そのURLを友人50人にメールで送っただけである。1週間後には25万件以上のビデオクリップがダウンロードされてサーバーがダウン、1カ月後にはダウンロード数は10万件にのぼっていたという。その後、同映画はアイフィルムで提供されるようになり、現在では310万回以上が視聴されて、アイフィルムの全映画の中でも最高記録に輝いた。その後、ハリウッドの大手タレントエージェンシーであるクリエイティブ・アーティスト・エージェンシー(CAA)との契約を果たし、現在では長編の制作に取りかかっている。
●実際の店鋪でビデオ販売も
デジタル映画が最初にブレイクしたのは、ジョゼフ・レビーによる『George Lucas in Love』であり、まだ家庭のブロードバンドユーザーが180万人にも満たない1999年のことである。その年に上映された『Star Wars』と『Shakespeare in Love』を合わせたこのパロディ映画は、メディアトリップ(Mediatrip)で公開されるや否や大きな反響を呼んだ。現在ではアマゾン・コムなどのECサイト、またタワーレコードやブロックバスターなどの実際の店鋪でビデオ販売されており、オンラインでは2万本、オフラインでは2万5000本が販売された。
その他にも、今年から新たに始まったサンダンス映画祭のオンライン映画部門で上映された『The New Arrival』を制作したエミー・トーキングトン、オンライン映画界で圧倒的な人気を誇るトッド・ベローなどの数々の優れた映画監督を生み出している。エミー・トーキングトンは、制作予算をまったく持っていなかったが、アトムフィルムズ(AtomFilms)が360度撮影できるビデオカメラを提供するなどのサポートを行っている。アイフィルム、メディアトリップ、アトムフィルムズのほかにも、ヒプノティック(Hypnotic)、ニブルボックス(Nibblebox)などのオンライン映画サイトで、毎日のように新たに映画監督が誕生している。
●ビジネスユーザーを狙うアイフィルム
しかし、これらの映画サイトがすべて成功しているわけではなく、失敗している企業も多い。ドットコムバブル崩壊のあおりを受け、昨年から今年にかけて多くの娯楽サイトが閉鎖した。デジタル・エンターテイメント・ネット(DEN)、スカウアー(Scour)、インターネットTVのスードー(Pseudo)などの撤退は大きな話題になり、スティーブン・スピルバーグが開設しようとしたPOP.comにいたっては、開設する前に計画がつぶれてしまった。
映画サイトの多くは生き残りをかけて、映画ファンへのコンテンツ提供だけではなく映画制作会社や配給会社へのサービス提供など、ビジネス市場に参入している。例えば、アイフィルムは映画情報会社のフィルムファインダーを買収することで、ビジネス市場への対応を強化している。1988年からサービスを提供しているフィルムファインダーは、映画制作、スケジュール、キャスト、プロデューサー、ファイナンス、配給など映画に関するありとあらゆる情報を印刷物およびCD-ROM版で提供しており、4万本以上の映画情報を管理している。契約企業は世界的に有名な映画監督やプロダクションなどを含めて1000件を超えているという。
アイフィルムはさらに、オンラインでデビューしたデジタル映画をオフラインの世界へ広げる努力も行っており、ケーブルテレビ局のインディペンデント・フィルム・チャンネル(IFC)と提携して、今年4月からアイフィルムの映画をテレビで放映するための新たなテレビ番組『IFILM@IFC』を開始した。これにより、3000万世帯以上の家庭でアイフィルムの映画が視聴できるようになる。
●Divxで映画もナップスター化する?
今後は、ブロードバンド接続サービスの普及とコンピュータの性能の向上により、ますますオンライン映画がネット上に溢れることになるだろう。しかし、それと同時に、映画ファイルが音楽ファイルと同じように手軽にやり取りできることで、海賊版が氾濫するという懸念が大きくなりつつある。
例えば、『DivX』と呼ばれる新たなビデオ圧縮技術を使えば、高画質を保ったままで大幅な圧縮を行えるようになり、90分や120分の長編映画も簡単にダウンロードして、1枚のCDに収めることが可能になる。ブロードバンドユーザーの中には、映画をDVDから直接Divxファイルに変換して、友人たちとネットでやり取りする人たちもいる。こうした状況は、ナップスターが登場する少し前のMP3ファイルのやり取りの状況とよく似ている。
現在のところ、ブロードバンドユーザーのほとんどは1.5Mbps以内であり、Divx技術もまだ『プロジェクト・マヨ』などのディベロッパーコミュニティで開発中の段階であり、一般ユーザーが簡単に使えるまでには至っていない。しかし、技術が改善され、100Mbpsのブロードバンド時代になれば、オンライン映画のダウンロードに手慣れたユーザー達が、MP3ファイルのようにDivxファイルを交換する可能性もありうるだろう。(2001年5月)
画像1:アイフィルムのホームページ(http://www.ifilm.com/)
画像2:デビッド・ガレットとジェイソン・ワードによる『Sunday's Game』
内容がバイオレンス過ぎるという理由ですべての映画祭や映画会社に断られるが、オンラインで大成功を収めた。
画像3:ブルース・ブラニットとジェレミー・ハント制作による映画『405』
大手タレントエージェンシーのCAAでは、アイフィルムが存在しなかったら彼らを見つけることはなかったという。
画像4:ジョゼフ・レビーによる『George Lucas in Love』は、アマゾンなどのウェブサイトから購入できる。ちなみに価格は12.99ドル。オンライン/オフラインで4万5000本が販売された。
画像5:アトムフィルムズのホームページ(http://www.atomfilms.com/)
今年1月15日にShockwave.comに買収された。
画像6:トッド・ベローの『The Death of Dottie Love』
同氏はこれ以外にもアンディー・ウォーホルがファクトリーで行ったような実験的なアートフィルムを10本アイフィルム上で発表している。
画像7:プロジェクト・マヨのホームページ(http://www.projectmayo.com)
『OpenDivX』と呼ばれるオープンソースを提供している。