September 02, 2002

ナップスターが残したもの

[ ASAHI ]

文/写真:長野弘子
掲載媒体:ASAHIパソコン

 またたく間にブームを呼んだ無料ファイル交換サービスのナップスターは、現在、音楽業界との1年におよぶ訴訟で、業務停止の危機に見舞われている。今年2月に裁判所から事実上の敗訴を言い渡された同社は、これに従うと同時に今後はサービスを有料化して生き残りを図る計画だが、レコード会社から要求されている巨額の賠償金問題など厳しい将来が予測されている。ここまで多くの人々を魅きつけ社会現象となったたナップスターの魅力とは何だったのだろうか。また、ナップスターが残した、デジタル音楽配信の課題とは何かを探ってみた。

●若者たちに圧倒的人気を誇るナップスター
 ナップスターは、中央サーバーにコンテンツを保存することなく、個人のパソコンからパソコンへMP3音楽ファイルを直接ダウンロードできるサービスだ。1999年半ばに公開されると同時に急速な広がりを見せ、わずか2年足らずでユーザー数は6400万人に膨れ上がった。使い方はいたって簡単で、1.5メガバイト程度のソフトをダウンロードしてユーザー登録をするだけで、自分のデスクトップにあるMP3ファイルが自動的に検索され、『MyFile』というボックスに集められる。あとは、検索ボックスにお気に入りのアーティスト名を入力すれば、他のユーザーが持つ音楽ファイルがリストアップされ、そこから気に入った楽曲をダウンロードできる。画面の下側では、現在のユーザー数とダウンロード可能なMP3ファイル数が表示されており、音楽ジャンルごとのチャット機能もついている。つまり、このソフトを使えば他のサイトを訪れることなくありとあらゆる音楽が無料で入手でき、世界中の音楽ファンと語り合うことができるのだ。
 ナップスターの画期的な点は、とにかく使い易い点にある。使ってみれば分かるが、自分の好きな音楽が簡単に見つかるし、気が向けば趣味の合う人々とチャットもでき、一度試せば病みつきになってしまう。ナップスターのヘビーユーザーで自らもアーティストであるマイケル・アイリス氏は「ほかにも音楽のダウンロードサイトはあるけど、ナップスターみたいなコンセプトのサイトは今まで存在しなかった。楽曲の検索やダウンロードがとにかく簡単で、自由度が高く、何よりもかっこいい。他のサイトは音楽を売り込もうとしているのが見え見えだけど、ナップスターは自分達で音楽を共有しているというコミュニティ感覚がある」と語る。ナップスターは、特に大学のネットワークを使用できる大学生らを中心に爆発的に広まり、トラフィックの3割以上をナップスターが占めるようになった大学も登場し、同サービスの使用禁止が相次いだ。PC Dataの調査によると、普及率の高い年齢層は12〜24歳であり、この年齢層に限ると普及率は4割を超えるという。

●音楽業界の逆鱗に触れたナップスター
 このソフトを開発したのは、当時18歳の大学生だったショーン・ファニング氏だ。99年初め、ルームメイトが、音楽サイトのMP3音楽ファイルへのリンクがよく壊れていると愚痴をこぼすのを聞き、ユーザーのパソコンから直接音楽をダウンロードすれば問題が解決すると思いついた。このアイデアを押し進めるため99年5月に同社を設立、他の企業も同様なソフトを開発することを懸念した同氏は、親の反対を押し切り大学を中退、寝る間も惜しんでコードを書き続けたという。ちなみに、ナップスター(Nappy=縮れっ毛)とは、くせっ毛のある同氏につけられた高校時代のニックネームである。
 ナップスターは市場に出ると同時に爆発的に人気が出て、脚光を浴びたが、丁度その時ネット上でのMP3ファイルの無料配信に対して神経をとがらせていた全米レコード協会(RIAA)が、同ソフトに目をつけた。レコード会社を代表するRIAAは99年12月、同ソフトで交換されている音楽ファイルのほとんどは違法コピーであるとして同社を提訴、損害は1億ドル以上におよぶとし、不法に配信された楽曲1件につき推定総額10万ドルもの賠償金の支払いを求めた。これに続いて、ロックグループのメタリカも2000年4月、ナップスターおよびユーザーの多いイエール大学、インディアナ大学、南カリフォルニア大学を提訴するという強行手段に出た。このため、3校は次々と同ソフトの大学での使用を禁止、これに続いて全米で70校以上の大学がナップスター禁止方針を打ち出すという事件が起こった。
 窮地に追い込まれたナップスターは、2000年5月にベンチャーキャピタル(VC)機関から1500万ドルの出資を受け、経営陣もレコード業界の法律問題の解決で定評があるハンク・バリー氏を暫定CEOとして、本格的な事業運営に乗り出した。また10月にはBMG Entertainmentとの提携を発表、同社はBMGからの5000万ドルの資金援助とともに、有料化への移行を進めていくと発表し、他の大手レコード会社にもこの提携に参加するように呼びかけた。しかし、音楽業界の態度は冷ややかであり、今年2月に出された判決では事実上の敗訴となり、上告する意向を示しているが将来性が危ぶまれている。

●ナップスターが音楽業界に与えた影響は?
 それでは、ナップスターは本当にレコード会社やアーティストの著作権を侵害し、CDの売上を減少させているのだろうか。過去に遡ってみよう。RIAAは以前、ダブルカセットデッキやビデオデッキに対して同様な訴訟を起こしている。ダブルカセットデッキが登場した時には、違法コピーを作成するための道具だとこれを批判し、空テープの販売に高い税率を導入するよう政府に要求した。また、ベータ/VHSビデオが登場した時には映画産業が潰れる危険性があるという理由でメーカーを訴えた。しかし、実際にはこれらの技術の登場が新たな市場を生み出し、音楽や映画産業をさらに発展させるというプラス面に働いたのである。
 ナップスターの場合も、同様なことが言える。RIAAによると、ナップスターが広まった99年のレコード業界の売上は前年の137億ドルから146億ドルへと増加しており、2000年4月には人気グループのイン・シンクの最新アルバムが240万枚売れたが、これは発売1週目の売上では最高記録となった。また、5月にリリースされたブリトニー・スピアーズ、エミネムのCDもまたそれぞれ130万枚、176万枚売れたが、これにはネット上でのプロモーションが大きく貢献したと言われている。
 無名のアーティストにおいても、ナップスターを含めたMP3のダウンロードサイトのおかげで、既存のディストリビューション支配から解放され、CDの売上が上がったケースがある。ユーザーにとっては自分の好みのジャンルの曲をその場で聴けるので、優れたアーティストを簡単に見つけられるようになり、数曲聴いてアルバムが欲しくなったら彼らのCDをECサイトですぐに購入することができる。
 ただし、現在ナップスターがCDの売上に損害を与えていない理由には、交換されている音楽ファイルの質がそこまで高くないことが挙げられる。その多くはアマチュアが自分のデスクトップでエンコーディングしているもので、実際には音楽CDの音質よりもかなり落ちるのだ。したがって、実質的にはCDをカセットにダビングしたものと大差はない。つまり、カセットを友人に貸したりあげたりする行為をデジタル化したものが、ナップスターのファイル交換サービスだと言える。そのカセットをレコード会社に無断で再販して利益を上げない限りは、犯罪行為にはならないだろう。

●ナップスターが開けたパンドラの箱
 ナップスターの登場は、ある意味で、デジタル音楽配信に関して取り組みが著しく遅れていた音楽業界への刺激剤だったと言える。いったん開けられたパンドラの箱は、もはやもとに戻すことはできない。今後は、エンコーディングの質もさらに高まり、限り無くオリジナルに近い音楽ファイルが無数にネット上で行き交うことになるだろう。また、GnutellaやAimsterなどナップスターと同様なP2Pソフトがどんど登場しており、ナップスターを潰しても海賊行為は水面下に潜って行われるだろう。さらに、ナップスターをあらゆるデータファイルにまで拡張するソフト「Wrapster」も出回っている。これを使えば、音楽ファイルだけではなく映画やソフトウェアなど、多種多様なコンテンツが大手サイトを通さずに共有または交換できる。ブロードバンドの普及とともに、交換されるファイルの種類は大幅に拡大し、今後は音楽業界だけではなく、映画業界、ソフトウェア業界などありとあらゆる情報産業を巻き込んだ問題に発展することが予測される。今後は、デジタルファイルにアクセス権を組み込んだデジタル著作権管理(DRM)技術の導入とともに、音楽業界とテクノロジー企業が互いの利益を尊重しながら新たな市場を確立していくことが必要になるだろう。(2001年3月)


■ナップスターと類似したファイル交換ソフトウェア■

Aimster
「バディリスト」に登録された相手との間で音楽ファイルなどが交換できる。現在、ナップスターのユーザーの多くがここに流れている。

Gnutella
中央サーバーにアクセスせずにどんな種類のファイルでも匿名で交換できる。ナップスターがユーザー間の橋渡し役として中央サーバーを必要とするのに対して、Gnutellaはユーザーがサービスを提供している別の人に直接接続するので中央サーバーは存在しない。AOLの開発者チームが3月にリリースしたが即座にサイトは削除。現在のソフトはその間ダウンロードされた1万件をもとに開発されたもの。

Freenet
Gnutellaと同様、中央サーバーにアクセスせずにどんな種類のファイルでも匿名で交換できる。

OpenNap
Wrapsterと同様、音楽ファイルだけではなく映画やソフトウェアなど、多種多様なコンテンツが大手サイトを通さずに共有または交換できる。


■ナップスターを巡る動き■
1999年12月8日 全米レコード協会(RIAA)、著作権侵害でナップスターを提訴
2000年3月14日 America Online(AOL)のSpinner/WinAmp音楽ソフト部門の開発者チームがGnutellaをウェブ上でリリース
2000年3月15日 AOL、Gnutella開発は同社とは関係のない個人的行為であると発表
2000年4月10日 Gnutellaのオープンソースコミュニティ(http://gnutella.wego.com)が開設
2000年4月13日 ロックバンドのMetallica、ナップスターと大学3校(イエール大学、インディアナ大学、南カリフォルニア大学)を提訴
2000年4月14日 イエール大学、Metallicaによる提訴を受けてナップスター禁止令を出す
2000年4月15日 「ナップスターから手を引け」とのメッセージとともにMetallicaのサイトがハッキングされる
2000年4月19日 Metallica、被告のリストからイエール大学を削除
2000年4月20日 インディアナ大学、Metallicaによる提訴を受けてナップスター禁止令を出す
2000年4月25日 南カリフォルニア大学、Metallicaによる提訴を受けてナップスター禁止令を出す
2000年4月25日 ハードロックバンドのLimp Bizkit、無料コンサートツアーでナップスターと提携
2000年4月26日 ラップアーティストのDr.Dre、ナップスターを提訴
2000年5月5日  連邦地裁判事、ナップスターによる略式判決の請求を退ける
2000年5月10日 ナップスター、Metallicaによる要求を受け著作権侵害者として31万7377人を除名
2000年5月22日 ナップスター、Hummer Winblad Venture Partners他により1500万ドルの出資を受ける
2000年5月22日 米民主党指導者協議会のシンクタンク、Policy Instituteが議会に対して、著作権侵害者を追跡するための法律制定を求める
2000年5月24日 米下院小規模事業委員会、デジタル音楽配信に関する公聴会を開催。音楽交換ソフトの法的規制を検討するのはまだ時期尚早との見方が主流に。
2000年7月26日 米連邦地方裁判所、ナップスターでの著作権付き楽曲の交換を一切禁ずるという差し止め命令を言い渡す
2000年10月31日 ナップスター、同社を提訴したBMG Entertainmentの親会社である独メディア大手Bertelsmann AGとの提携を発表。有料サービスとして生まれ変わることを発表
2001年2月12日 米連邦控訴裁判所、ナップスターでの著作権付き楽曲の交換を禁ずることには変化ないが、その範囲を絞って停止命令を出し直すよう指示して地裁に差し戻す
2001年2月20日 ナップスター、著作権付きの楽曲を交換するための権利として5年間で10億ドルを支払う和解条件をレコード業界に提示
2001年3月5 日 米連邦地方裁判所、著作権付き楽曲を特定する作業はレコード会社もその一部を負担すべきという仮処分を決定
2001年3月6日 グラミー賞組織委員会、ナップスターを提訴
2001年3月7日 オンライン音楽配信サイトのEMusic、ナップスターを提訴


画像1:ナップスターのホームページ(http://www.napster.com/)レコード会社に対抗して米政府に同サービスの存続を訴えるよう、ユーザーに呼びかけている。
画像2:ナップスターの『MyFile』ボックス。ここにユーザーのパソコンのMP3ファイルが自動的に保存され、他のユーザーからダウンロードした音楽ファイルも収められる。
画像3:ナップスターの検索サービス。アーティスト名や曲名で検索すると、楽曲がリストアップされる。ファイルサイズやファイル所有者のネット接続速度なども掲載される。中には14.4kbpsでつながっているユーザーも。
画像4:ナップスターのチャットコーナー。いろんな音楽情報をここで入手。
画像5:Gnutellaのホームページ(http://gnutella.wego.com/)音楽業界の次の訴訟のターゲットになるのか?ちなみに、『http://www.gnutella.com/』に訪れるとあるメッセージを見ることができる。
画像6:デジタル著作権管理(DRM)技術企業、ReciprocalのLarry Miller音楽部門社長。「DRMを使えば、ある音楽ファイルを販売する際にユーザーが何回聴けるかを設定したり、月額料金を支払って好きなアーティストの音楽を無制限に聴けるなど、細かなルールを設定できる」と語る。
画像7:ナップスターのヘビーユーザーで自らもアーティストであるマイケル・アイリス氏(左)「アーティストは今までだって自分達の稼ぎの1割も貰ってなかったんだ。それぐらいだったら、ナップスターを有料化して曲が売れたらミュージシャンに直接お金を渡すようにする方がよっぽど良心的だと思う」と語る。

Posted by hiroko at September 2, 2002 03:11 AM
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