September 02, 2001

サウス・ブロンクス/SCOTT LA ROCK

 夜のとばりが街の喧噪を覆い尽くし、夜行性の動物たちが地下の廃虚から這い出してくる頃、私たちはハイ・ブリッジへと向かった。フォーダム・ロードからグランド・コンコース通りをどんどん南へと下って行く。それは、強盗列車と謳われた悪名高き4番列車の道筋である。

 夜のライトに照らされた道ばたにたむろする若者たちの黒いフードが、朽ちかけた建物に不気味な影を落としている。彼らは1ブロックごとに一つの固まりとなり、建物の入り口の階段からすべての通行人を見張っている。まるで、一匹の獲物も見逃さないかのように。ここへ迷い込んだ不幸な旅人が、何人命を失ったことだろう。車のステレオから流れるラップ・ミュージックが、一番しっくりくる場所。ここには何の妥協もない。何者の介入も許されない。私は、友人がそこに住んでいるという手っ取り早い言い訳を見つけて、その場所へ滑りこんだ。そして、車がグランド・コンコースから右へそれてどんどん奥地へ入っていくにつれ、私の心臓の鼓動は高まり私の耳に流れ込む低いラップのビートと重なった。

 私は混乱していた。期待感は恐怖と怒りとでずたずたに引き裂かれ、その後には、混乱と心臓の高鳴りだけが残った。ここは、生活の場である。人々はここで食べて寝て、話して歌って、そして恋をする。細い道を通りすぎた時、一台の壊れた車を見た。形骸も留めない程破壊しつくされた車は、その惨めな残骸を夜の冷気に曝していた。私は、その車とその後ろに広がる金網と廃虚の光景を忘れることが出来なかった。それは、この土地の運命を象徴しているように思えたからだ。互いに互いを傷つけあい、その叫喚はこの空間のみに閉じこめられ、いつまでも永遠に反響し続ける。

 遠くの方で明かりが見えた。入り口が開け放たれた白い家は金網の中にある。中年の女性が洗濯物の取り入れをしているのが、ものすごく切なかった。私達はハイ・ブリッジの近くまで行った。壁一面のグラフィティ・アート。バスケットボール選手がダンクを決めている絵に「ストップ・ザ・バイオレンス」の文字が入っている。巨大な道端の芸術。私は彼にしばらくの間車を止めてもらうように頼んで、その巨大な壁画に最大の敬意を払った。

 その建物を越えると、私達はプロジェクト(公共住宅地)の前にいた。ハイ・ブリッジ・プロジェクト。暗く静かな、そして何かが潜んでいそうな雰囲気に思わず私は振り返った。そして暗闇を見た。苦しい。何かが私を締め付けるようだ。車は静かに静かにその場所へと入っていく。KRS-ONEの唯一無二の相棒だったSCOTT LA ROCKが撃たれた場所へと。そして、バスケット・コート。ひっそりと静まり返ったそのコートを見た時彼が言った。

 「あの場所が、彼が撃たれた場所だ」そして彼は、道をはさんで反対側の建物を指さし、彼を撃ったギャングが隠れた場所だと言った。私は目眩がしそうだった。

 この土地には、数多くの墓碑がある。一人一人の墓碑が。RIP(Rest In Peace)というグラフィティ・メッセージが、ブロンクスの街の至る所に失われた若い命の名前とともに残される。限りなく尊く、この街を彩り守っている挑戦的芸術。車はまた動きだし、数ブロック先のドラッグストアの前をゆっくりと通り過ぎる。一固まりの若い影。彼らは今日も自分達のテリトリーを守っている。ギャングの抗争で死ぬのはいつも若い命だ。今日は何人の命が、銃によって飛び散ったのだろう。(1996年10月27日)

Posted by hiroko at September 2, 2001 04:41 AM
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