September 02, 2001

2パックの死以降

 ヒップホップは、死んだ。PEやKRS-ONEなどがラップを政治的な意志表明に使い、DE LAやATCQがラップをダウンタウンに持ち込んだまではよかった。しかしそれ以来ラップはどんどん商業化され、西海岸のギャングスタが事態を最悪にした。今のラップは、ハードコアとコマーシャルにはっきり分かれている。そしてそれが、黒人達の断絶を深めている。

 ハードコアは電波にももう乗らない。カレッジやオフィスの黒人達は、「ホット97」はハードコアすぎて聞けないと言うが、あれだってゲットーの男の子達が聞いているようなブートレグのテープに比べれば、まだかわいいものだ。そういったテープには、流行った曲の替え歌とか、きつい下ネタとかがたくさん入っている。私が聴いたブロンクスのコープ・シティ(CHI-ALIやPOSITIVE Kなどが住んでいる)の地元DJ達が作ったテープは、MARY Jの「I'M GOING DOWN」とBRANDYの「I WANNA BE DOWN WITH YOU」を使って下ネタ・ラップをやっていた。音は、ラフでめちゃくちゃかっこいい。ラジオから流れるような、ラップの刺や角を全てばっさり切り落として作られている、綺麗でどこか間抜けな音ではない。だから本当に好きな人は、12インチを買う。ブートレグを買う。

 しかし、一般に言われているハードコアは、商業化されたスタジオ・ギャングスタだ。憎悪と反社会的なありとあらゆるネガティブなイメージを与えられたラッパー達は、そうやって売れた後、そのイメージを保つことでジレンマに陥る人達もいる。2パックやビギーもそういった悩みを打ち明けている。そして、大量生産されたゲットーのイメージを消費している人々は、ゲットーの黒人や白人のサバービアンのガキだ。

 黒人コミュニティがそういったイメージに踊らされ、そのイメージを強化していることも事実だ。ネガティブなラップを聴いて不必要な憎しみを増幅させる若者達が、大勢ゲットーにいる。しかし、コミュニティにおける様々な問題の原因は、何なのだろう?それは、勿論ラップから始まったのではなく、アメリカの差別の歴史によってコミュニティが負わされた業から始まった。ネガティブなラップはその現実を描写する事から始まり、その後は売れる為の手段に形を変えた。だから、ネガティブなイメージを商業化し、それをエキセントリックなものを求める若者達の餌にした企業は、考え方を改めなければならない。ホット97の提唱する「ドラッグ・フリー、ガン・フリー、ヒップホップ・ネイション」が実現するのは、そうやって考えるとほど遠い先のことのように思える。

 また、コマーシャルなラップは、今のポップスのあらゆる所に浸透し、もう今でははっきりヒップホップとは認識できないところまで来ている。その作り手は、どんどん大手のコングロマリットに吸収され大衆化(アメリカ化)されていく。バッピー達には、ハードコア・ラップは反社会的すぎるので、軽めのラップや大抵はR&Bに流れていく。また最近は、「オールドスクール」が好きな人が増えている。クラブ好きやダンサーは、今のラップってどろどろしていてノレないと言う。ダンスミュージックにはならない所までハードコア・ラップは進んでいて、ジャズや他の音楽が辿って来た道と同じ道を進んでいる。

 ヒップホップは、金儲けのための手段に成り下がって、日本の若者に対しても多くの誤解や幻想を生み出し続けている。そういう意味で、ヒップホップは死んだ。金儲けや遊ぶ事しか考えない人達が殆どの世界で、文明社会の中の倫理感の喪失した場所、ゲットーの荒廃度は回復不可能な所まで来ている。それに関わりたくないバッピー達は、彼らにほとんど関心を示さない。その状況を本当に変えたいと思ってスピーク・アウトしている人達のみが、いいラップを作り続けていけると思う。(1996年10月12日)

Posted by hiroko at September 2, 2001 04:42 AM
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