September 02, 2001

Set It Off

[ RAW ]

By Hiroko Nagano

 切ない映画である。今年11月6日から全米公開された「Set It Off」は、黒人版「テルマ&ルイーズ」などと言われているが、内容は黒人コミュニティの問題すべてを包有するだけ比較にならない程深い。

 4人の黒人女性、ストーニー(ジェイダ・ピンケット)、クレオ(クイーン・ラティファ)、ティティ(キンバリー・エリース)、そしてフランキー(ビビカ・フォックス)は、ロス・アンジェルスのゲットーで生まれ育った幼馴染みだ。フランキーはゲットーから抜け出すために、ダウンタウンの銀行で働いていた。しかし彼女は、銀行強盗に合った際に非常ボタンを押すのを忘れたという理由で簡単にクビになり、ゲットーに戻り他の3人と一緒にビル掃除の仕事をするはめになる。フランキーは冗談で「銀行強盗でもするしかない」と言うようになり、それがいつしか現実の行動となっていく。彼女達はお金で幸せを掴もうとし、その次に、そこまで彼女達を追い詰めた原因であるゲットーを抜け出そうとする。その寸前に、この話の幕は悲劇とともに降りてしまう。

 この映画を観た人達の中には、今まで観た中でもベストの映画だという人達もいれば、黒人女性達のネガティブなイメージを増幅するものだと批判的な人達もいた。アメリカで黒人達が置かれている状況を把握しないままにこの映画を観れば、彼女達は銀行強盗という安易な手段でお金を求めるので、この結末は自業自得だとも解釈できる。しかし、本当にそうなのだろうか?

 ストーニーの相手役のキース(ブレイヤー・アンダーウッド)は、ハーバード出身の超エリート黒人である。そのキースがストーニーに「君は5年後、何をしていると思う?」と尋ねるシーンがある。ストーニーは、「そんな事、考えた事もない」と答える。目的や夢を持てない状況を作り上げている社会がそこには厳然と残っている。この国の黒人達は、江戸時代の日本の農民のように、いまだに「生かさず殺さず」の状態を余技なくされている。米国政府が発表した1995年の平均家庭年収は、黒人は白人に比べ約50万円も低く、さらに若干であるがヒスパニックよりも低い。この状況を無視し、今年11月18日のニューヨーク・タイムズ紙では、黒人の生活水準は上がっていると報じていた。同紙によると、1989年には白人家庭の年収の79%だった黒人家庭の年収は、1995年には87%に上がっているという。しかし、この「黒人家庭」には、生活保護の代表であるシングル・マザーが含まれていない。また、黒人達の貧困層は、現在でも白人達の約3.4倍という多さである。

 ストーニーがキースに「あなたは、自分が自由だと思う?私は、いつも何かに縛られているような気がする」と言うシーンがあるが、この言葉は、搾取されいまだに底辺の生活を余技なくされている黒人達の共通の叫びだ。だから、この映画の中で彼女達が取った行動というのは、安易な生き方などとは正反対の必死の行動だといえるのである。一緒に映画を観に行った友人は、丁度ストーニーのような真っ直ぐな性格の女性だったが、映画のラストシーンで「みんな馬鹿なんだから」と何度も呟いていた。彼女の同胞達への愛情が痛いほど伝わってきた。

 この他にも、ギャングのボスであるブラックサム役のドクター・ドレイは、演技の必要がないほどはまり役だった。また、ブラックサムの横でちょこまかしているのが、26歳という若手監督のゲイリー・グレイだ。グレイは、アイス・キューブとクリス・タッカー主演映画「Friday」(1995年)で正式に映画監督としてデビューした。また、同年には、クーリオのミュージック・ビデオ「Fantastic Voyage」の製作を担当し、ビルボード大賞(Billboard Music Award)のベスト・ラップビデオ賞を獲得した。またMTV Music Video Awardsでは、TLCの「Waterfalls」、またドクター・ドレイの「Keep Their Heads Ringin」のビデオ製作でも授賞している。グレイはクラシック・カーを集めるのが趣味で、映画「Set It Off」の中でも自分の車('62 Impala low rider)に乗り、ラティファのボロ車を馬鹿にするシーンがある。

 一方、レコード業界では有名なラティファのレズ説について、彼女は11月19日号のビレッジボイス誌上ではっきりこれを否定しているが、真相は定かではない。映画「Set It Off」でも、マッチョのレズビアン、クレオ役を演じるラティファがガールフレンドとキスをするシーンがあったが、その時、会場でホームボーイの一人が冗談っぽく「ラティファ、俺はもうファンをやめるぜ!!」と叫んでいた。ホモフォビック(ゲイ嫌い)のヒップホップ・コミュニティでは、彼女がカミング・アウトすると人気が落ちるのは明らかだ。いずれにせよ、この映画でラティファの迫真の演技を観れば、彼女の男女を越えた人間的魅力に惹きつけられる事は間違いない。

 黒人女性が主役になる最近のブラックムービーの傾向として、ゲイリー・グレイ監督は「今まで黒人女性は、ガールフレンドなどの補佐的な役や売春婦などのネガティブな役ばかり押しつけられてきたが、こうやって主役になることでそういったイメージを払拭する事ができる」とAfronetの中で語っている。 (1997/Jan. Issue)

配給元:New Line Cinema

Posted by hiroko at September 2, 2001 05:06 AM
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