アメリカで開かれた広告業界イベント
「Jupiter Online Advertising Forum」レポート
文/写真・長野弘子
掲載媒体:ASAHIパソコン(1998年9月号)
インターネット広告は、ホームページ上部に横長のグラフィックを設置するお馴染みの「バナー広告」から、電子メールに5行程度のメッセージを折り込む広告、ホームページのスポンサーシップ、広告つきブラウザソフト、チャット広告、などさまざまな形態が登場しており、飛躍的な勢いで成長している。そんなインターネット広告業界のイベントが、ニューヨークで開かれた。
「1000人見たら数十ドル」というバナー広告の料金体系
インターネット広告の市場規模は、1996年には2億7500万ドルだったのが今年は約20億ドルに、さらに2003年には150億ドル市場にまで伸びると予測されている。成長著しいこの分野の関係者を集め、インターネット広告業界の会議「Jupiter Online Advertising Forum」が、8月11日から13日までニューヨークで開催された。
インターネット広告には、さまざまなパターンがあるが、現在主流になっているのはバナー広告だ。グラフィックのサイズに規定はないが、その多くは468x60ピクセルか120x90ピクセルである。米インターネット広告協議会(IAB)により、これらを含めて8種類の標準が提案されている。既存のメディア広告ともっとも異なる点は、興味があれば広告をクリックして目的のサイトへ飛んでいけること、またアクセスの記録を分析しターゲットの絞り込みができる点にある。
バナー広告の出稿料は、広告が掲載されているサイトにユーザーが1000回訪れたとき、いくら広告主がホームページの持ち主に支払うかというコスト(CPM)をベースにしたものが主流だ。平均的なサイトはCPMが25-35ドル、YahooやInfoseekなどの人気サイトになるとプレミアムがついて70ドル以上になる場合もある。例えば、1日に1万人がアクセスすると、ホームページの持ち主は数百ドル受け取る計算になる。その他、ターゲットを絞ったユーザーをベースとするモデルなども登場している。
電子商取引サイトに特化したi-trafficというメディア・プランナーなどは、「到達→認知→態度変容→購買行動」という広告の目標を重視し、「広告を見たかどうか」ではなく、「広告商品を買ったかどうか」をベースとする料金設定を採用している。
また、インターネット広告は、広告会社と出版社の間に立つ「メディアレップ」の存在をさらに重要なものにしている。メディアレップとは、広告スペースの仲介を行う企業だ。極端な話、すべてのホームページにはバナー広告を設置できるわけだから、インターネットには無数の広告スペースが溢れていることになる。それを既存の広告会社が細かく管理できないので、広告スペースを募り取りまとめて広告会社・広告主に働きかけていく存在である。
重要性を増すバックエンドシステム
インターネット広告の特性を最大限に活かした広告展開を行うためには、ユーザー情報や広告スペースを管理するための新たな技術が必要になる。とくに、広告スペースを管理し、各ユーザーに最適な広告を配信するための「アドサーバ」技術の開発は急速に進んでいる。アドサーバとは、広告主が広告を配信し、配信状況やその効果を把握して報告する技術であり、IDやパスワードでログインしてウェブ上で報告を入手するサービス・ビューロー型、アドサーバ・パッケージを購入するシュリンクラップ型に大別される。
この分野の代表格であるDoubleClickでは、サイトの種類だけでなく、ユーザーの使用しているブラウザやOSタイプ、さらにアクセスしている地域や時間などの情報をもとに、特定ユーザーへの絞り込みを実現するアドサーバ・サービス「DART」を開発している。具体的には、ユーザーIPアドレスからネットワークアドレスを抽出し、会社を識別して対象にふさわしい広告を選択する。さらに、ユーザーが同じ広告に何度も無駄に遭遇しないようにユーザーと広告の接触を追跡するクッキーを使用している。
NetGravity社も11日、IBMとの提携により同社のアドサーバ「AdServer」を使用した広告管理サービス「AdCenter」を提供することを発表した。この技術が効果を発揮すれば、ウィンドウズユーザー向けにマックのソフトウエアの広告が表示されるといった無駄がなくなる。Asahi.comでは、このAdServerを使用している。
またユーザー情報についても、年齢や年収のみではなく、よく訪れるサイトや購入パターンなどの行動プロフィール(Behavior Profile)を重視する傾向が強まっている。4000万人のユーザーを抱えるInfoseekでは、行動プロフィールを学習する「Ultramatch」サービスを1996年後半から提供しており、これによりオンライン旅行サイトや自動車販売サイトのクリック率は大幅に高まったとしている。
さまざまな新ビジネスが登場
現在、クリック率やユーザー情報の正確性を高めるため、プロモーション用の懸賞やクジ、オンラインゲームを提供するユニークな企業も次々と登場している。この分野の草分け的存在であるYoyodyneは、オンラインゲームを提供することで100万人以上の消費者データを収集している。同社のスポンサー向けプロモーションでは、10万-30万人の参加者を集めることも珍しくない。1996年に設立されたWebstakesもまた、インターネット上のカスタム・プロモーションを運営するための独自ソフトウエアおよび技術を使用してオンライン懸賞を提供している。
今回の会議で注目を集めていた新興企業のNetcentivesは、提携ECサイトで製品を購入すると「ClickPoint」という通貨を提供するサービスを行っている。たとえば、Music BoulevardでCDを3枚購入すると100 ClickPoint。Visaを使用して買い物をすると500 ClickPointがもらえる。同社によると、ユーザーの40%以上が少なくとも1社から、13%が2社以上から製品購入を行っており、ECサイトの平均購入率は18%にも達するという。
「サイト視聴率」や「プライバシー保護」が今後の課題に
12日の基調講演で、AOLのBob Pittman社長は「インターネット広告は大きなビジネスチャンス」と語り、今後のインターネット広告市場の巨大な可能性を示唆した。しかし、正確な広告の料金設定のために必要なサイト視聴率の測定標準が定まっておらず、ユーザー情報も正確性に欠けるなど、インターネット広告には多数の問題点がある。
また、広告主のユーザー情報がサードパーティの広告会社に漏洩することに対する懸念も広がっている。同会議でModem MediaのG.M. O'Connell会長兼CEOも「ユーザー情報のプライバシー保護やセキュリティ管理が今後は重要になってくる」と語っている。現在、IABがサイト視聴率の標準策定への努力を行っており、プライバシー保護に関してはEngage Technologiesが匿名のユーザー情報を収集する技術を開発しているが、これらの標準策定や測定可能なモデル確立への努力が、インターネット広告市場の成長に不可欠だといえる。