September 21, 2002

ブロッグを通して戦禍のバグダッドから届く生々しい声

ネットは「ブッシュの戦争」に対抗する力となりえるか?

第29回(4/4/2003)
文/写真:長野弘子

 テロに対する「新しい」戦争、イラクを「民主化」するための戦い---テレビで繰り返されるブッシュ政権の一方的なメッセージとは裏腹に、戦禍のバグダッドからの生々しい声が、ブロッグや独立系メディアを通してネット上で広がっている。国境を超えた新たなメディアは、「ブッシュの戦争」に対抗する力となりえるのだろうか?また、戦時下のネットに対する報道規制はなされるのか、ネットを軸としたイラク戦争に迫ってみた。

●戦禍のバグダッドから発信されるブロッグ
 イラクに1基目のミサイルが投下された3月19日の夜、世界中の人々が、サラム・パックスというバグダッド在住者のブロッグ(注1)に殺到した。このブロッグ『ウェア・イズ・ラエド?』では、激しい空爆の状況に加えて、銀行や店が閉鎖され、ガソリンを買うのに何時間も待たされる、さらにはシリアへの渡航費が50ドルから600ドルに跳ね上がったなど、現地の様子が克明に描かれている。

 ブロッグの人気ランキングを調べる「テクノラティ」(technorati.com)で2位に位置するほどの人気ぶりだ。反戦のためにイラク入りした「イラク平和のためのチーム(IPT)」(iraqpeaceteam.org)や「人間の盾」(humanshields.org)もまた、テレビ報道とはまったく異なる視点から戦争の悲惨さを伝えている。IPTのスコット・カーは3月24日に「ここで感じるすべては、”衝撃と恐怖”ではなく”惨めさと困窮”だ。食べ物も日用品もなくなり街の95%は閉鎖状態にある」と書いている。

 相変わらず限定された情報しか流さない米国のテレビ局に対して、人々は実際に何が起こっているのかを知ろうと、個人のブロッグやNPOのサイトに押し寄せている。4500以上のニュースサイトから新たな記事を自動更新する『グーグル・ニュース』もまた、外国メディアに触れるきっかけを多くの人に提供した。このサイトで”イラク戦争”と入力すると、フランス、インド、中国のサイトを含めて13万件以上の検索結果がヒットする。

●世界中のハッカーもサイバー戦争に突入
 多様な視点をもつ外国メディアのなかで、もっとも物議をかもしているのが、カタールを本拠地とするアラブ衛星テレビ局「アルジャジーラ」のサイトだ。米国防総省の要請により、米国のテレビ局は戦死者や負傷者の映像を自粛しているが、このサイトではこうした映像を流している。

 しかし、これに反発した愛国心にあふれるハッカー達は、英語版が3月24日に開設されるや否や激しいハッキング攻勢に出て、アルジャジーラのサイトは現在でも閉鎖された状態になっている。フィンランドのウイルス対策ソフト会社のFセキュアによると、同サイト以外にも改ざんされたサイトは多く、開戦後の5日間でサイト改ざんの報告は1万件近くにものぼったという。同社によると、ハッカーの種類は愛国主義者、イスラム過激派グループ、平和活動家の3種類に大別されるという。

 さらに、米兵捕虜の写真を掲載した米ニュースサイト「イエロータイムス」(YellowTimes.org)が、フロリダのホスティング会社ボーテックから予告なしにサイトを削除されたという事件も起こった。ボーテック側は、このサイトはアダルトコンテンツを掲載しないという自社ポリシーに反すると説明しているが、民間企業による言論統制として批判が高まっている。

●警察による暴行をストリーミング映像で公開
 メディアおよび通信手段として、ネットが反戦運動に与えた影響はきわめて大きい。2月15日、3月20日に起こった世界的な反戦デモは、メーリングリストや電子メールを通して、史上もっとも速く広まった最大規模の運動だといわれている。テレビでは数分しか報道されなかったこれらの反戦集会は、世界規模の独立系メディア・ネットワーク『IMC』などで詳しく報道されている。

 こうした運動を取り締まる警官隊との衝突もエスカレートしており、反戦デモの逮捕者はベルギーで450人、米国サンフランシスコで1300人、UCバークレー校で120人、NYでは215人に膨れ上がり、スペインでは武装警官により178人が暴行を受け重軽傷を負った。こうした逮捕劇や暴力行為もまた、市民のビデオカメラで撮影され、ストリーミング映像で流されている。

●国家の枠組みを超えて結びつく人々
 同じ価値観を共有する人々を強く結びつけるネットは、国家の枠組みをこれまでにない速度で消滅させ、戦時下の報道スタイルを根本的に変えてしまった。この反動として、オープンなネットを厳しく規制する動きも生まれている。ブッシュ大統領は3月25日、ネットなどの重要なインフラ、また大量破壊兵器に関する詳細を、新たに機密扱いにできるという大統領令に署名した。すでに機密扱いが解除されている情報を、政府がふたたび機密扱いにすることもできるという。

 こうした政府の動きに加え、民間企業による自主規制やハッカー攻撃といった、情報をコントロールしようとする動きが強まっている。今後この動きはさらに強まるものと危惧されるが、ネットを通して伝わった情報が、「イラクの自由作戦」とは、実はイラク人の虐殺だったと世界中に知らしめたことは確かである。戦争プロパガンダとしての自由や正義の醜悪さが浮き彫りになったいま、以前の報道規制へ逆行することは市民が許さないところまで来ていると期待したい。


(注1)ブロッグ:日づけ順に頻繁に更新され、特定の記事やウェブサイトへのリンクを掲載しているサイト。数年前から、オンライン日記に変わる新たな個人情報発信のツールとして爆発的に広まっている。

画像1:バグダッド在住のサラム・パックスによるブロッグ『ウェア・イズ・ラエド?』

「なぜ、これがバグダッドで起きなきゃならないんだ。僕の愛する建物が爆破されて吹っ飛んだとき、泣きそうになったよ」(3月24日付けのブロッグより)


画像2:アルジャジーラ英語版のミラーサイト

英語版(http://english.aljazeera.net)はまだ閉鎖されたままだが、ミラーサイトでサイトの一部を閲覧することが可能。アラビア語サイト(http://www.aljazeera.net)


画像3:Fセキュアの「イラク戦争と情報セキュリティ」ページ

イラク戦争に関連したハッキング、サイト改ざん、ワーム攻撃などの情報を掲載。


画像4:『IMC』:スペインの反戦デモの映像

3月21〜22日にマドリッドで開催されたデモで、武装警官が参加者に暴行を加え、178人(アムネスティ・インターナショナル調べ)が重軽傷を負った。

Posted by hiroko at September 21, 2002 02:42 PM | TrackBack
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