September 20, 2002

ミリオン・ユース・マーチでの体験:納得できない警官の行動と報道

文:長野弘子
『ミュージックマガジン』1998年11月号


 9月5日、黒人青年の団結を目的としてハーレムで開催された「ミリオン・ユース・マーチ」に参加した。参加者は全米中から集まり、日本のヒップホップ・キッズも何人か参加するなど、マーチ自体はポジティブなバイブに満ち溢れたものとなった。しかし、私が一番不満に感じたのは、マーチを監視する警官たちだった。会場となったマルコム・X通りの118-124丁目は警官で埋め尽くされ、しかも終了間際に突如壇上に上がった武装警官によりマーチは無理矢理中断されてしまったのだ。

 しかし、自宅に戻って観たテレビニュースでは、警官でなくマーチ主催者のカリード・ムハマド氏が暴動の扇動者として一斉に非難されていた。テレビ画面ではカリードが壇上で「もし警察が暴動を起こしたらやり返せ」と叫ぶ姿が何度も流されており、これを観た人は同氏が暴動を起こしたと勘違いしてしまうだろう。しかし、このマーチは「ミリオン・ユース」ではなく「ミリオン・コップ・マーチ」といえるほど多数の武装警官とヘリコプターに監視され、地下鉄も110丁目から125丁目まで閉鎖されるという異常なものだった。警官はいつ攻撃を開始してもおかしくないような体制であり、このような状況のなか、同氏は警官を牽制する意味でこの言葉を使ったのである。

 それ以外にも納得できないことがあった。それは、終了時間である。これはニューヨーク市から4時間の許可を受けている合法的な市民イベントであり、12時20分から始まったので4時20分までは続けられたはずだった。しかし、警官が中断したのは4時きっかりで、報道ではこの事実に一切触れていなかった。また、もしも時間が超過したにしても、市民の行うイベントがこのような一方的な暴力で中断されるケースは前代未聞だ。

 私は、こうした事件の背景には、不満を募らせる黒人の貧困層が団結することに対するアメリカ政府の恐怖感があると思う。好景気が続くアメリカで、黒人の集中する都市部での失業率は逆に増加し、黒人は平均して白人の12分の1の資産しか持っていない。経済的に不利な立場にいるのに加えて、多くの黒人はヘイトクライム(人種や宗教などを理由にして起こる憎悪犯罪)の標的にされている。昨年8月、警察4人が「ニガー」などの人種差別的な言葉を発しながら黒人を半殺しにする事件が明るみに出て全米中に衝撃を与えたが、今夏もテキサス州で黒人がトラックに引きずられて殺されたという事件が起こっている。

 これらの状況に対して、黒人優越主義を説くイスラム教団、ネイション・オブ・イスラム(NOI)やファイブ・パーセント・ネイション(5%)では、問題解決のために黒人の団結を強く訴え、多くの黒人たちを惹きつけている。私は、これらの団体が、ただの弱小組織であるうちは何の問題もないが、全米規模になり多くの黒人を惹きつけるようになったので、政府の弾圧に遭うようになったのだと思う。95年にNOIリーダーのルイス・ファラカーン氏が黒人の団結を取り戻すために開催した「ミリオン・マン・マーチ」は、100万人を大きく越える参加者を達成し、マーティン・ルーサー・キング師による68年のワシントン大行進以来の大事件となった。その後、こうしたマーチは全米規模で広がっている。

 私は、黒人優越主義を説くことが正しいとは思わないが、彼らがなぜそれを信じなければならないかを考えたときに、彼らを批判し弾圧する政府のやり方は間違っていると思う。今年8月21日、アメリカ大使館爆破の報復としてクリントン米政府がアフガニスタンとスーダンを突如爆撃した事件も、これと同じ構図があるように思えてならない。

 カリードの息子でミリオン・ユース・マーチの責任者でもあるファラカーン・ムハマド氏は「アメリカはダブルスタンダードの国だ。アメリカ国内では黒人を、国外ではイスラム教徒と共産主義者を差別している。アメリカ政府の行動は、軍事力という合法的な暴力を使用して行っているテロ行為と同じだ」と語った。クリントン大統領はこの攻撃を「テロと戦う」正義の行為と主張しているが、爆撃された工場からはテロリストと関連する確証が検出されず、国際的批判が高まっている。ニューヨーク市長のルディ・ジュリアーニ氏も、ミリオン・ユース・マーチの開催を「暴動の懸念」から反対していたが、実際のところ「暴動を懸念」している政府側が暴力を起こした結果となった。

Posted by hiroko at September 20, 2002 03:26 PM | TrackBack
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