どのライブに行こうかと毎週ビレッジボイスを開くだけで胸がときめいた当初に比べ、最近は観客とパフォーマーという単純なライブの構図に多少飽食ぎみだった。そんな折、知人から風変わりなイベントの招待を受けた。それはアートとジャズの融合「Homage To The Greats」プロジェクトというもので、7月10日、イースト・ビレッジの南の果てに位置するアブロンズ・アート・センターで行われた。
小さなコミュニティ・センターで行われたそのショーは、強烈だった。観客がほとんど若い黒人達で埋められた会場のステージの上で、エクスペリメンタルなジャズを演奏するアントニオ・ハート・カルテット。そのすぐ横にはアフリカの衣装に身を包んだ3人の女性が音楽と一体になって踊り、後ろで飄々とした風貌のアーティストが一心不乱に銀のワイヤーのスカルプティングに取り組んでいる。
主催者でありアーティストでもあるテランス・バンコーレは、「ソウル・ストローキング」というアート製作プロセスをアートの世界から音楽やダンスの分野に広げて、それを観客と分かち合おうという主旨でこのショーを企画したという。ソウル・ストローキングとは、「自己の内面を解放することによって神または高次元の存在を感じ、その喜びに溢れた状態で作品を製作する」ことだという。黒人として、またアーティストとしての心のなかに沸き上がる不安感や焦燥感を「Let Go」(吐き出す)ための手段として、彼とその友人などで数年前から始めたソウル・ストローキングは、彼を「Let Go」シリーズというペインティングの製作に駆り立てた。同シリーズは3年前から始められ、今も続いているという。
テランスは「このシリーズを手がけるようになってから、不安感や焦燥感、また既成概念などとに捕らわれることなく、自分自身のままでいいのだと実感できるようになった。高次のエネルギーが体を通過し、魂が解き放たれるのを感じながら製作するものはアートでも音楽でも同じポジティブなエネルギーを持つ。僕にとっての音楽とはソウル・ストローキングのインスピレーションそのもので、とくにジャズを聴くときに強くインスパイアされ、音がビジュアライズされるんだ」と語った。
そのテランスがもっともインスパイアされるミュージシャンの一人、アントニオ・ハートは、ジャズの巨匠ジミー・ヒースのビッグバンドや若手ピアニストのベニー・グリーンとともに、ブルーノートやビレッジ・バンガードにも出演している若手サクソフォニスト。以前何度か彼のプレイを聴いたことがあったが、今回のプレイはそのときのストレイト・アヘッドなジャズ・プレイとはまったく異色のものだった。それは、ブルースからアフロ・キューバン、また他のエスニック音楽までが自然に融合された、彼の個性がそのまま音の結晶となって心に染み込んでくるような不思議な音色だった。
アントニオはショーのあと「これが本当に僕がやりたかったことだ。ジャズをやっているからといってトレーンばかりを聴いているわけじゃない。ヒップホップやボブ・マーリーだって聴いているのだから、それが音に表れるのが自然だ」と語った。ニューヨリカン・ポエツ・カフェなどにもよく行くというアントニオの新しいCD「Here I Stand」には、注目のポエト、ジェシカ・ケア・ムーアなども参加している。
ステージ上で、自由に自分を表現している人間を観るのは、何ともいえず心の安らぐ体験だった。アントニオは、ショーの最後に「コミュニティを助けるためにこのイベントに参加できて嬉しく思う」と語ったとき、観客からの歓声に包まれた。テランスは、ストローキシズム・ムーブメントは広がりつつあるという。また、一人一人の自己解放による喜びを通して平和や調和が生まれるので、このムーブメントは黒人コミュニティを結びつけるポジティブな力になるという。最近のヒップホップ・ポエトリー、またニューソウルの動きとともに、ジャズやアートを融合したストローキシズムは、黒人コミュニティのなかの新たな癒しの機能を果たしていくことだろうと思った。(97/09/01)
Posted by hiroko at September 21, 2001 04:43 PM | TrackBack