1996年6月22日、ニューヨーク、チェルシーのCarry On Cafeで、ニューレフトのグループ主催のパーティがあり、その中でCritical Massというラップグループのパフォーマンスがあった。最初にニューレフトのメンバーの何人かがポエトリーリーディングを行った。内容は政治批判や社会問題、特に人種差別を訴えたものが多かったが、その中でも先頭を切ったポエトが、黒人でレズビアンでもあるCritical MassのMCの一人、Hanifai Slangだった。
22才という彼女の詩は、繊細だがエゴイズムには走っていないメイクセンスな内容の詩だった。黒人に対するステレオティピカルな認識や、レズビアンであることに対して受ける冷たい風あたりをストレートに表現していた。オーディエンスは人種的にミックスされていたが、彼女が白人を批判する度に、白人達の間から拍手や賞賛の声があがるのに不思議に思った。その後、友人から、彼女のいう白人というのは、個人を指しているのではなく、白人優越主義というアメリカの政治構造全体を指していると聞いた。
Critical Massのパフォーマンスが始まった。彼等のメッセージはシンプルで力強いビートにのって、まるで吟遊詩人の即興の詩のように自然にカフェの中に浸透した。怒りに満ちたメッセージを彼等はRightious Angerと表現する。拳を力一杯ふり上げ「Freedom Africa」を叫ぶHanifai に続き、プエルトリコの男としての人生をたんたんと語るDawizzardは対照的。もう一人の女性MCは、ラフなドレッドにか細い体をもつボヘミアン風のLittle Rukus。Da BratっぽいしっかりとしたラップでHanifai をサポートする。
Critical Massによると、今のラップはコマーシャルになりすぎていて、自分達の本当に言いたいことが言えなくなっている。だから彼等は自分達でレーベル HAZMAT Productionsを作ってとインディでやっている。活動は彼等のホームタウンであるニュージャージーを含め、ニューヨークエリア全体にわたる。Hanifai は言う。「ポエトリーは私のすべて。私の考えていることや感じていることのすべて。ラップ?ラップは私のソウル。わかるでしょ?ラップは、ビート。感じるものなの。ポエトリーは、私自身。だからちょっと違うのね」
チェルシーをくだってウエストヴィレッジを抜け、6番街と8丁目の角にさしかかったとき、ポリスカーがヒスパニックのホームボーイを捕えるところだった。夜道に、捕まった男の子の抵抗する声と、周りの男の子たちのポリスをなじる声がこだまして、『Do The Right Thing』を思い出した。(1996年8月3日)