監督:Spike Lee
いい映画の多くはあまり劇場公開されないか、されてもすぐに終わってしまう。スパイク・リー監督の「Four Little Girls」は、7月16日からフィルム・フォーラムで1週間だけのプレミア上映となった。これは1963年9月15日にアラバマ州のバーミングハムで黒人教会が爆破されたときに犠牲者となった、4人の黒人少女についてのドキュメンタリー映画だ。ビレッジの映画館に着いたときには、すでに映画を待つ長い行列が1ブロックほど続いていた。チケットは売り切れていたが、どうしても観たくて立ち去れずにいたところ、見かねた婦人が1枚チケットを渡してくれた。
館内に入ると、映画のスクリーンに映し出された南部の血なまぐさい景色が目に飛び込んできた。殺された4人の少女の写真と墓碑。街のいたる所にある「ホワイト」と「カラード」の表示。白装束に身をまとったKKKの行進。黒人に向けられるあらゆる暴力と憎悪。放火、爆破、リンチ、警察犬、消防放水。すべては、ほんの30年ほど前の出来事とは思えないほど異常だ。A.M.シュレジンガーが当時の南部白人を見て語った「この人たちは人間か?それとも動物なのか?」という言葉が脳裏に蘇った。教会を爆破し逮捕されたロバート・チャンブリスは、煙草を吸いながらぞっとするような表情の薄笑いを浮かべていた。
奴隷としてこの国に連れて来られた黒人達の苦渋に満ちた歴史は、リンカーンの奴隷解放宣言から100年目の1963年という年に、大きな転機を迎えた。この年の4月、キング牧師は、差別問題で重要な鍵を握るアラバマ州最大都市のバーミングハムで、本格的な差別撤廃闘争を開始した。バスボイコット、シットイン運動、またデモ行進などの非暴力闘争は日増しに拡大していき、警察隊は子供を含むこれらの黒人デモ参加者を毎日200人以上も逮捕した。一般の白人達もあらゆる暴力や脅迫を使ってこの運動を弾圧し、ジョージ・ウォレス・アラバマ州知事やブル・コナー警察署長などの権力側がそれを支援した。
激しい弾圧を受けながらも非暴力に徹した運動は各地に広がり、ついに8月28日、アメリカ史上最大のワシントン大行進が開催される。ここに、1954年の最高裁による公立学校の共学判決、また1955年のモントゴメリーのバス・ボイコット闘争から10年以上も続いた公民権運動は結実するのである。
しかし、こうした動きは南部の白人達に多大な恐怖感を与え、黒人への暴行や教会爆破を相次いで引き起こすことになる。9月の新学期に入ると、ウォレス・アラバマ州知事が黒人の入学する予定になっていた学校の3校を閉鎖し、州兵を出動させて黒人生徒の入学を阻止するという事件が起こった。ケネディ大統領の特別声明により、州兵は特別退去を余技なくされたが、その1週間後に教会爆破が起きている。その犠牲となったのが、この4人の少女達なのだ。こうした多数の運動や犠牲のなかから、翌年、一連の公民権法が制定されることになる。
リーは、殺された4人の少女を愛してほしいと語る。罪のないごく普通の人間の死を、歴史の闇に埋もれさせてはいけない。殺された少女達は、花のような笑顔を持っていた。年老いた両親、兄弟や友人、学校の先生、教会の牧師などが、数限りない彼女達の思い出を綴る。商業的な部分を完全にそぎ落とした今回の映画で、リーは人種問題をより真剣に考えることが必要だと訴えたかったのだろう。
観客は、ビレッジの映画館にしては珍しく3分の2以上が黒人で埋められていた。私の横には中年の白人男性が座っていたが、少女達の家族が涙ながらに当時の心境を語るシーンで大きな欠伸を繰り返していた。映画を観に足を運ぶこと自体、何らかの意識を持った人達だと思うが、それでも映画をただの娯楽と考える傾向のある土地柄を感じた。
Posted by hiroko at September 21, 2001 05:02 PM | TrackBack