文:長野弘子
(熊日新聞 2000年8月掲載)

シアトルの夏は短い。抜けるような青空にさんさんと降り注ぐ太陽の光を見ることができるのは7月と8月のたった2カ月だけ、あとはまたグレーなお天気に戻ってしまう。シアトルっ子たちはこの2カ月を首を長くして待ち、夏が来ると仕事もそっちのけで山に登ったり海にヨットを浮かべて短い夏を満喫する。

私にとっては初めてのシアトルの夏。9カ月間続いた雨模様の空から解放され、週末はここぞとばかりに近くの山々に出かけて、美しいワシントンの自然を満喫した。週末を過ごしたサンホアン諸島では、滞在したロッジの真上をアメリカンイーグルが飛び交い、海岸ではオットセイが戯れるという体験をした。そんなシアトルの夏で一番忘れられない思い出になったのが、世界中からミュージシャンを招いて3日間行われたワールド音楽フェスティバル「WOMAD」だった。

WOMADは、著名なミュージシャンのピーター・ガブリエルらが提唱して、英国で1982年から開催された世界中の音楽を結びつけるイベント。1988年からは、米国、南アフリカ、日本、オーストラリア、シンガポールなど世界で開催されるようになった。その米国での開催地がシアトルなのである。しかも、その開催場所は、なんと以前紹介した「犬の公園」である。
毎週、犬を散歩に連れていく、家から車で数分のところにある犬用の公園が、世界規模のイベントの舞台?どうもピンとこなくて、私は「これは、行かなきゃ損だよね」ぐらいにしか考えていなかった。
しかし、タカをくくっていただけに、このイベントにはすっかり度胆を抜かれた。世界20カ国から総計50組以上のミュージシャンが集まり、しかも見るバンドすべてが、とにかく凄いのだ。

特に、セネガルのヒップホップグループ「ポジティブ・ブラック・ソウル」は、DJとターンテーブルにコーラ(アフリカの弦楽器)やトーキングドラムとサバー(どちらもセネガルのドラム)を加えたパワフルなフレンチラップで、観客を乗りに乗せた。

セネガルのヒップホップグループ「ポジティブ・ブラック・ソウル」。3人のMCは自由自在にアフリカの楽器を操り、会場は大きく盛り上がった。

また、私の大好きなナイジェリアの歌手「フェミ・クティ」、マダガスカルのグループ「タリカ」も素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。
観客も全米中から集まり、車のナンバープレートを見るとオレゴン、アイダホ、はてはノースダコタまで。夜は巨大なキャンプ場と化し、これが、あの犬の公園なんてとても信じ難い。
フェミのインタビューでは、ナイジェリアの停電の話をしていた。ナイジェリアでは、夜10時以降は町中の電気が消えるという話。みな、笑っていたけど、LAで今、同じようなことが起こっている。
世界旅行に行ってきたような気分にさせてくれた熱狂のWOMADが終わって、私は週末犬とともに再びこの公園を訪れてみた。ガランとした公園は、もうWOMADの面影はなかった。その後、私はジャンベを買い、暇さえあればポコポコ叩いている。
Posted by hiroko at September 1, 2002 02:01 PM | TrackBack