チャッターボットから癒し系ロボットまで
文/写真:長野弘子
第13回(2002年1月)
ウェブサイトのチャットルームで出会った人が、実は人口知能(以下AI)だったら、あなたはどうするだろうか?ネット上では気づかないうちに、AIボットがあちこちに出没している。一方、病院や事故現場など私たちの周辺でも、人間に変わって仕事をするロボットが増えている。AIとメカトロニクスを組み合わせた人間型ロボット「ヒューマノイド」が生活の一部になる日は近いのかもしれない。
●チャットルームに住む「チャッターボット」
人間に交じってネット上で会話をするロボット「チャッターボット」の草分け的存在は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のジョセフ・ワイゼンバウム教授により発表された擬似会話プログラム「イライザ(ELIZA)」だ。1966年、MITのネットワークで学生に公開されたが、あまりの人気に数日後にはオフラインにする必要があったという。
このプログラムを改訂した「アオリザ(AOLiza)」というチャッターボットが2000年8月、AOLのインスタント・メッセンジャー(AIM)に登場し、ユーザーの多くがボットと気づかないまま1時間以上もやり取りを続けたという。
アオリザと同じ時期にAIMに登場したのが、ゼネラル・エレクトリック社のコンピュータ科学者トム・キール氏が開発した「ビザロキール(BizzaroKiehl)」だ。聞いたことはすべて記憶し、相手の言葉からキーワードを繰り返して使うといった学習能力を持っている。しかし、これらのボットは同じフレーズを繰り返したり、意味不明な言葉を口走ったりして、人間の会話とはほど遠いのが現状だ。

アリスボット:オープンソースのAIプログラム「アリス」を利用して作られているサイト。現在サイトはベータ版で、正式版はまだオープンしていない。
その後、マーケティング用のチャッターボットが次々に登場した。たとえば、アクティブバディ社が開発したスマートチャイルド(SmarterChild)とグーグリーミノター(GooglyMinotaur)は、映画や音楽、スポーツなど特定のトピックに関して様々なイベント情報を教えてくれる便利なボットだ。また、昨年10月に人工知能の研究に贈られるローブナー賞を授賞した「アリス」(ALICE)は、プログラムをオープンソースとして無料で研究者に提供しており、AIMの「レクノールチャット5(LeknorChat5)」などアリスを使ったAIが多数開発されている。

スマートチャイルドとのAIMチャットシーン:スポーツや映画情報などを会話形式で教えてくれる。
●インターネットのなかで成長するAI
ネットユーザーの個々の知性を学習するAIも生まれている。人口知能の専門家クリス・マッキンストリー氏が開発した「ジャック(GAC)」は、ユーザーから知性の最小単位である「マインドピクセル」を集めることで人間的な感覚を身につけていく。

マインドピクセル(http://www.mindpixel.com):AIの「ジャック」に質問と答えを教えることができる。現在、約4万6000人が参加している。
ユーザーは無料で会員登録し、その後、ジャックに「人間は夢を見る」などの命題を与え、真か偽かの答えを入力する。これにより、人々が成長の過程で学ぶ知識をひとつずつ覚えていくのだ。
開始から1年半経った現段階で、43万個以上のマインドピクセルが集まっている。またイスラエルの研究所では、AIの第一人者、ジェイソン・ハッチェンスにより、自発的に言語を学ぶAI「HAL」が開発された。約2歳になろうとしているHALは、児童心理学者とのやり取りにより、正しい話し方を教え込まれている。
こうしたAIプロジェクトは多数存在しているが、実際のところ、人間の知能に近づいているとは言えない状況だ。身の回りに溢れるファジー理論にもとづいたエアコンや家電製品、またニューラル・ネットワークや遺伝的アルゴリズムを応用したクレジットカードの詐偽検出ソフトなどもAIのひとつだが、これらはすべて限定された範囲内で動作しているものだ。
●楽観派と悲観派に分かれるヒューマノイド理論
AIが人間の知能とはかけ離れている理由のひとつは、人間には備わっているが、AIにはない能力がある。言葉では表現できない「暗黙知」を理解する能力だ。寿司がどんな味がするのかをいくら言葉で説明しても、実際に食べてみなければ分からないように、理解するためには、世界を感じる五感と身体が必要になる。
こうしたことから、AIに身体を持たせる人間型ロボット「ヒューマノイド」の開発が盛んになってきている。この分野では、ホンダの「ASIMO」、またボールを蹴ったり跳ねたりするソニーのヒューマノイド試作機「SDR」が話題を集めているが、現段階では、お世辞にも人間に近いとは言えない。
しかし、コンピュータの進化は凄まじい勢いで進んでいる。スティーブン・ホーキング博士やサン・マイクロシステムズの主任研究者ビル・ジョイ、またMITの未来学者レイ・カーツワイルなどは、将来的にはコンピュータが人間の知性を超えると大胆な予測をする。ロボット工学で有名なMITのロドニー・ブルックスは、将来的には人間と機械の融合が起こるとも言う。著名な科学者たちは、人間を優れた存在にしておくためには、コンピュータにつながれた人口脳により知性を高めることが必要だと考えているようだ。

ソニーのヒューマノイド試作機「SDR-3X」:二足歩行ができ、音声によるコミュニケーション、頭部に装備されたCCDカメラからの映像データを識別する機能などもある。
いずれにせよ、同時多発テロでは20台のロボットが捜索に当たり、チェルノブイリの原発事故の探索ロボット、火星の惑星探査プロジェクトのための資材運搬ロボットのほか、医療分野でも手術用の遠隔操作ロボットが使われ始めている。これらのロボットとヒューマノイドを同義に捉えることは早計だが、癒し系ロボットといわれる「AIBO」が家庭に浸透し、愛情を注いでいる人たちが数多くいるのも事実だ。人間とロボットの境界線がじわじわと曖昧になりつつあるのかもしれない。
Posted by hiroko at September 25, 2002 01:09 PM | TrackBackmitaina
Posted by: 近藤麻衣子 at December 16, 2004 03:05 PM私は大学生の情報の授業のレポートで人口知能について調べています。映画のAIを私は見たことがあります。映画の中の話は心をもったロボットが母親に捨てられるという悲しい話です。(ラストはいまいちな感じでしいたが・・・。)
いまロボットの五感を作りだそうとしているのなら、そのうち、限りなく人間に近いロボットができてしまうかもしれない。その技術はすばらしいと思うのですが、不安にも感じられます。
こんな映画のような、人間のエゴで不道徳にロボットが作られてしまうようなことはありえるのでしょうか?
人間の意識を持ったロボットが作れるのかどうかーーー今の段階だと不可能に近いのでしょうが、人間の身体に機械やチップを埋め込んで能力を補完したり増強する技術はどんどん進んでいます。ロボットをテーマにしたSF小説などでは、作られた存在のはずのロボットが人間よりも賢く強くなり反乱が起き人間が支配されるといったプロットが多いのですが、メカによって増強されたロボットのような人間が登場すれば、通常の人間との軋轢が生まれるかもしれません。
人工知能の分野は不可能と言われながらも根強く研究が進んでいますね。また、IT業界の起業家のなかにも人工知能に惹かれてこの業界に入った人が多く、グーグルの村上社長もその1人です。Podcastで当時のお話なども聴けます。
http://blog.digi-squad.com/archives/000765.html
最近読んだAI関係の本では、「考える脳 考えるコンピュータ」が面白かったです。