
今日は、ネットスケープ・ブラウザの生みの親であるマーク・アンドリーセンの講演がホテルオークラで行われた。彼が最近何をやっているのかほとんど知らなかったが、彼の創設した会社、Loudcloudは、2002年に自社サービス事業部門を大手アウトソーサーのEDSに売却し、iDCサービス事業者や大手企業向けのデータセンター管理ソフトの開発に事業を切り換えたという。そのときに、Opswareと社名を変更。現在、主にEDSにOpswareソフトを提供しているという。なお、Loudcloudという名前は現在でもEDSのサービス事業部門のひとつとして存在しているそうだ。
今日のイベントの目的は、NTTコミュニケーションズとOpswareとの提携発表ということだったので、ネットスケープ時代の話はほとんど出なかった。会場に集まった600人弱の人々も、ほとんどスーツ姿のビジネスマンで、完璧なエンタプライズ市場という感じ。それもあって、報道陣はかなり少なめだった。
マーク・アンドリーセンの講演の内容は以下↓
この10年におけるインターネット人口の成長はもの凄く、1994年の100万人から2004年には8億人へと、80倍も増加しています。こうしたネット人口の増加は今後も続き、10年後にはネット人口が20億人、20年後には40〜50億人に達しているかもしれません。増えているのは人口だけではなく、ネット上で過ごす時間も増えています。その分、睡眠を削ったり、働く時間を削ったりする人もいるでしょうが(会場から笑い)、削られた時間の多くはこれまでテレビに費やされていた時間なのです。
ネットで過ごす時間が伸びた背景には、ブロードバンド(BB)の普及率の伸びが影響しています。BBに関しては、米国ではここ数年伸び悩んでいましたが、ようやく最近になり急速に伸びてきました。もちろん日本ではBBがかなり普及し、また韓国でも普及率はきわめて高く、中国とインドも急速に伸びています。これまでのPC1台に電話線をつなげたナローバンドの形態と比較して、BBでは何が違うのでしょうか?それは、PCが1台ではなく複数台つながり、さらにテレビやステレオなどの家電もネット接続が可能になるという点です。
また、ここ数年の経済不振で、人々はテクノロジーを買わなくなったと新聞では報道されていますが、それは嘘です。なぜなら、WiFiなどのワイヤレス技術が大きく伸びているからです。多くのカフェで、WiFiは人気を集めており、マクドナルドも全米規模で店舗にWiFiネットワークを導入することを発表しました。WiFiネットワークとそのユーザー数が増えることで、さらにサービス価格も減少します。ほかにも、デジタルカメラが人気を集めていますが、新しいトレンドとして、カメラつきの携帯電話が売れています。通常のデジカメと、携帯カメラの違いは、携帯カメラはネットにつながる機能が標準でついているということです。今後は、カメラだけではなく、ネットにつながったデバイスというものが、より一般的になるでしょう。
その最適な例が、MP3プレイヤーです。音楽ファイルの違法コピーや海賊行為などとメディアは書き立てていますが、その問題はそれほど重要ではないと思います。もっと重要なのは、人々の多くがデジタル音楽を求めているということです。
MP3プレイヤーの普及により、音楽業界は、いくつかの問題に直面しています。まず、携帯音楽プレイヤーの容量の増加です。小さなデバイスに数万曲もの楽曲が保存できる現在、音楽業界は新たなサービスモデルやその価格設定を迫られています。次に、MP3プレイヤーにはまだワイヤレス接続機能がついていませんが、今後、こうした機能がつくのは時間の問題でしょう。そうなれば、お店で好きな楽曲をダウンロードすることが簡単に行えるようになります。最近、車に搭載するタイプのMP3プレイヤーで、WiFi機能がついている新製品が出ました。これにより、車をガレージに止めて、翌朝までに自分のPCから音楽ファイルを車に転送し、通勤途中で聴くことができるのです。
ほかにも、電子メールやインスタントメッセンジャー(IM)の利用に関して、数量が増えるだけではなく、容量の大きな音声やビデオも増えています。さらに、携帯電話のようなモバイル機器での利用など、プラットフォームも拡大しています。
こうしたトレンドが、ビジネスにどういった影響を与えているのでしょうか?一言で言えば、企業にとってはITシステムを管理することがますます困難になりつつあるということです。企業では、IT予算のうちの75%を維持・管理費に使っており、新しいシステムの開発にはわずか25%しか費やしていません。システムを維持するだけで巨額なコストがかかるのです。また、ハッカーによる攻撃(と言っていました。。。)やウィルスが増えており、セキュリティ対策が不可欠になっています。さらに、システムのアップグレードやクラッシュを防ぐシステムなどのクオリティが求められています。
こうしたコスト、セキュリティ、クオリティを考えたときに、ITシステムは「新しいやり方」を導入することを迫られているのです。それが、グリッドまたはユーティリティ、オンディマンドといった言葉で語られる自動化のためのシステムなのです。Opswareは、こうしたユーティリティ・コンピューティングの世界に、ソフトウェア・プラットフォームを提供しています。
5年前に設立したLoudcloudは、アウトソーサーでした。News Corpに3年間サービスを提供するなど、さまざまな企業にサービスを提供しており、システムがクラッシュしたらその分だけ顧客に料金を払い戻す方式を採っていました。売上額の3%分をこの払い戻し予算として確保していたのですが、実際に払い戻しをしたのは1%以下でした。これは、私たちのサービスのクオリティを示す数字だと思います。
その後は、ソフトウェア企業として戦略を変更しました。顧客企業はブラウザーからボタンをクリックするだけで、サーバー数を増減できる、こうしたユーティリティ・コンピューティングの核になるソフトウェアの開発を行っています。いくつか例を挙げると、FOXSports.comがアクセスが数倍に跳ね上がる「スーパーボウル」の日に、素早くサーバーを増やすことで対応しました。また、USAToday.comは、911テロの事件の際に90分でサーバーを十分な数にまで増やすことができました。今後は、NTTComとの提携のもと、日本でもサービスを展開していきたいと思っています。
(以上)
P.S. 原稿執筆のため資料として起こしてみました。まだまだQ&Aセッションと取材時のICレコーダー1時間分が残ってます(泣)。それにしても、6-7年前に比べて、マークさんすっかり痩せてました。昔、スーツが似合わないな〜(失礼!)と思っていたけど、今ではすっかり板についた感じがします。
取材時には、ミネラルウォーターとオレンジジュース、それにお菓子を持って来てくれるようにホテルオークラの人に頼んで、たくさん飲んで食べていました。「ずっと話していたので、体力を消耗して痩せてしまったような気がするよ」と言っていましたが、けっこう体力を消耗するお仕事をしているんだなあと思いました。
その後、インターネットマガジンの西田さんとインターネット生活研究所の有田さんとお茶していたとき、マークさんは一体どのくらいの資産を築いたかという話が出ました。ネットスケープのIPO、iPlanetの売却で、何十回もリタイヤしてもいいくらいなのだそうです。私だったら、旅行に行ったり、遊んでしまうだろうな〜と思ったので、それだけでも偉いと思いました。。
詳しいレポートうれしいです。今日のマーク・アンドリーセン行きたかったのですが、夕方に打ち合わせが入ってしまってその資料作成があり動けませんでしたー。
1月後半にHotWired Japanのデジタル虎の穴で「ユーティリティ・コンピューティング」のお題が出たことがあって、私はけっこう批評的な話題を書いたので、ちょっと実態の話を聞きたいなとは思っていたのでした。
"04/01/27 のテーマ:ユーティリティコンピューティング、どこがスゴい?"
http://www.hotwired.co.jp/nwt/040127/
デジタル虎の穴、読みましたよ。ユーティリティ・コンピューティングは死語というよりも、まだ定義のあまり定まっていない言葉だと思います。虎の穴にもあるように、個人向けや中小企業はまったく対象にしていません。OpswareとNTTcomの発表でも、これから大手企業に向けてユーティリティ・コンピューティングを普及させていくと言っていました。サーバー台数が数千〜数万台といった企業がターゲットだと思います。「電気や水道のように」という喩えは分かりやすいように使っているのかもしれませんが、なんだか個人向けみたいな感じで語弊があるのかもしれません。
http://utilitycomputing.itworld.com/4589/040330kaplan_namegame/page_1.html
quote
In over twenty years in this industry, I can't recall a market trend that was promoted by customers equally as much as vendors - especially when the name of the trend is still up for debate.
Whether they were talking about utility computing, on-demand computing, grid computing, applications services, software as a service, Web hosting, outsourcing, offshoring or even business process outsourcing, the senior enterprise executives at the UtilCompWorld conference were unanimous in their view that the 'production' aspects of computing were becoming a commodity, as Nicholas Carr proclaimed in his now infamous Harvard Business Review article in 2003.
/quote
BTW、ビジネスプロセス・アウトソーシングが行き着く先は、表向きの看板が違うだけで、裏では1社がぜーんぶ業務をこなすといった状況なのでしょうか?
Posted by: hiroko at April 9, 2004 12:44 PMネットスケープ、ピーク時のクラークの株式資産が5億ドルだったらしいです。
確か創業時の事務の女性もひと財産築いたらしいです。
もう働かなくてもいいくらいの資産を築いたのに、
いまだにシリコンバレーの小規模なベンチャー企業で、
若者どもにハッパかけているやり手の女性らしいです。
有り余る資産で日々旅行しまくり、遊びまわり、買い物しまくりってだけの生活もさびしい気がしますよ。。。。
旅行はしたいけど(笑)
確かに、毎日が遊びだったらそれも飽きてしまいますよね。お金払って、仕事作ってもらったりして(笑)。
Posted by: hiroko at April 9, 2004 06:48 PMうーむ、ユーティリティ・コンピューティングという呼び方すらもまだ落ち着いてないようですね。最近の総合的で複雑な業務を扱う分野は一言で表せなくなってきて、暫定的に使われ始めた呼び方が普及する一人歩き始めますよね。知らない人に「Utility」というと電気・ガス・水道を思い浮かべそうな気がします。類似のものでは「Web Services」もかなり誤解を招いています。これも知らない人には「XMLを使った複数サイト間の自動データ交換」のこととは判らないでしょうし。
「死語」はディスカッションを盛り上げようと刺激的なポストにしてみたのですが、やり過ぎだったかも。ちょと反省。
そういえば思い出せなかった元の記事はこれでした↓
"グリッドコンピューティングとユーティリティコンピューティングの違いは?"
http://japan.cnet.com/column/pers/story/0,2000050150,20061766,00.htm
"ユーティリティコンピューティングをアテにするのはまだ早い"
http://japan.cnet.com/column/pers/story/0,2000050150,20060845,00.htm
「新しいベンチャーが参入する余地はなく、今までの企業生態系の延命にしかならないという話」の部分は私の不確かな記憶が捏造してましたね。(confession)
BTW、ビジネスプロセス・アウトソーシングが行き着くと裏では1社が全部こなすみたいな状況は、もしかすると起きうるかもしれません。例えば飛行機の予約システムだと世界的にAppoloとOfficial Airline GuideとAAのSabreにほとんど集約されてしまいました。でも重要インフラ保護的には危険なので、ただ一つというのは避けたい事態ですね。集約されても3つ以上はあってほしい。また唯ひとつというのもモノカルチャーの危険がありますし。
BTWBTW、シリコンバレーに居る知り合いのAndrew(実はMaskinが昔居た会社の人でもある)は、その昔Netscapeがまだほとんど操業メンバーだけの8人だったころに誘われてミーティングに行ったけど、なんだか先行きどうなるか不明な気がして入らなかったので、後の展開を見てくやしがっていました。「あの時もしも...」って。
資産できてしまったら、やはりエンジェルになって新しいベンチャーを育てる人は多いですよね。Wired誌を立ち上げたLouis Rossettoも売却後そういうことをしてました。私なら研究所でも作ろうかな。MIT Medialabと社会学研究をくっつけたみたいなの。で、アウトプットはオープンにして、私的ベンチャーというよりは社会起業プロジェクトに広く使えるようにして、とか。でも旅行は行きたいー!
「gt研究所」賛同します。
設立時には声かけてください(笑)
現代の寺子屋ですかね。
日本には、エンジニアとアーティストとジャーナリストが
ごちゃごちゃ集まって意見交換したり、アイデアを昇華させるような場所がとても少ない気がしています。
僕が宝くじでも当たったら、「ハイテク・カフェ」をつくりたい。
書籍・雑誌でいっぱいで、
おいしいお茶で深夜までゆっくりできるとこ。
テーブルや壁面はデジタルホワイトボードになっていて、
すぐにアイデアを書き込むことができるとこ。
デジタル白鹿亭みたいな飲み屋でもいいな。
研究所にハイテクカフェ、いいですね。私もそういった場所が欲しいです。ぜひぜひ作ってください。gtさんの研究所、ディープな人が集まりそうです。:) Andohさん、宝くじと言わず、共同出資かファンドみたいな仕組みでどうでしょう?
Posted by: hiroko at April 10, 2004 02:25 PM「gt 研究所」公用語は英語で、数カ国語が飛び交っていそうです。
ハイテクカフェ、18ヶ月で開業資金回収できるか、
18ヶ月赤字続きでもへっちゃらなシステムじゃないと
一発屋で終わりそう。
そもそも資金のヤリクリに終始していると、
いいもの、いい場所はできなくなってしまうのが心配。
企業メセナに理解のあるところ、大金持ちのエンジェルが、
見返り無しで貢献してくれるとかがいいな。
個人でも無理なく貢献できる金額を沢山の人から
集めるのも一つの手ではありますね。
ゲーム制作のためにファンドで資金集めた例がありましたが、
金額的見返りはほとんどゼロ。
出資した本人の名前がエンドロールに載ることと、
そのゲームが世にでて遊べることになったことだけ。
カフェファンドもうまい仕組みと、皆が喜ぶ場所を用意すれば、
そこに載ってくる人が大勢集まるのかもしれません。
会員制、ソーシャルネットワーキングカフェ、
「おおかっと」
みたいなハイテクカフェがいいのかもしれません(笑)
いきなり現実的な話で夢がないかもですが、カフェをカフェだけで成り立たせようとすると、いきおい自転車操業の心配がありますよね。共同出資はうまく回転してるときはいいのだけど、経験者の話を聞くと危機が来たときに出資者が互いに微妙な関係になりやすいようです。ファンドは何か爆発的に拡大する要素がないとリターンするのがたいへんかも。
そういうカフェだと、何か他のビジネスと組み合わせて運営するのが良いかもしれないですね。スタバも観察するとコーヒー用品からCDまで売っているわけだし。カフェがじつは研究所の一部てゆーのはありかも? ネットカフェになっていて、お客さんはみんなインターフェースデザインのテストユーザーだったりとか。
話は変わりますが、マークさんは「Data Center Markup Language(DCML)」というXMLベースのデータセンター用共通言語を作るためのコンソーシアム(dcml.org)の立ち上げにも関わっていて、今年前半にはDCML対応のOpsware製品を出すと昨年10月に話しています。DCMLに関しては時間がなくて聞けなかったのですが、製品がまだのところをみると、聞かずに正解だったかもです。
http://www.infoworld.com/article/03/10/14/HNandreessenqa_1.html
quote
IW: How long before some of the companies backing this can deliver products that ascribe to the standard?
Andresseen: They can start rolling out product that will be interoperable starting early next year. What will happen is the 1.0 specification will be out early next year, sometime in the first quarter. We will ship a DCML 1.0-based version of Opsware early next year. Then we will release both a Reference Implementation of DCML source code in open source form also in next year's first quarter, and then also a set of open source DCML descriptions of a lot of the common components that make up a datacenter like a lot of the common servers, and software products like Oracle and BEA. So people should be good to go basically in first quarter of next year. And also, as a vendor you will be able to implement DCML however you want in your own commercial products.
/quote
データセンター用マークアップ言語、なるほどー。アンドリーセンは最近はホントに見ている分野がバックエンドですね。そのコンソーシアムには、IBM、Sun、MSはまだ参加してないようですが、BEAとTibcoを含む25社が賛同してるが興味深いです。当然DCMLをW3CやOASISに持っていく用意をしている。
これは、Opswareから対応製品が出ることよりは、IBM、Sun、MSの寡占化に対して、他の企業がオープンスタンダードを武器に連合して対抗しようとしている印象がありますね。というか、DCML.orgに賛同してる企業の意図はそのあたりにあるでしょう。しかし、共通スタンダードが出来ればユーザー(データセンター企業)から見れば選択肢は増えるのでメリットがある。これもまた、このところ起きている、「旧来からの囲い込み型ビジネス指向」対「分散協調ビジネス指向」のせめぎ合いの一つの例かもしれません。